2013年11月号記事

人生の苦しみを取り除く考え方 2

3.いじめ

加害者にやさしい いじめ解決法は被害者を苦しませる

中学2年の男子生徒が自ら命を絶った大津いじめ自殺事件は、学校による「いじめ隠蔽」という問題を象徴する出来事だった。

2011年10月の事件発生当初、学校側はいじめの存在を否定していた。だが翌年1月、自殺6日後の職員会議で、校長が「自殺の原因はいじめ」と発言していたことが発覚。当初から、複数の生徒がいじめの存在を教師に指摘していたことも分かった。

度重なるいじめ自殺を受けて、9月に施行された「いじめ防止対策推進法」では、児童・生徒のいじめを禁じ、出席停止などの罰則を適用することを明記した。だが、 学校や教育委員会側がいじめを隠蔽した場合の罰則はなく、大津の事件の教訓は生かされていない。

いじめ問題において、悪いのが加害者であることは間違いないが、隠蔽する学校側の保身がいじめを温存し、エスカレートさせている現状を改善しなければならない。

千葉市在住の藤原千佳さん(50代、仮名)は、長男が中学時代に、同級生から殴る蹴るなどの暴行を加えられるという、度を越したいじめに遭っていた。藤原さんが学校に相談すると、担任の教諭は加害生徒の家庭に問題があることを明かし、「ストレスがたまって暴力を振るっているので、許してやってくれ」と話した。もちろんいじめは収まらず、その後、長男は転校を余儀なくされた。学校や加害者からの謝罪は一切なかった。

いじめ問題について、日本教職員組合(日教組)の岡本泰良・書記長は今年6月、次のような見解を示した。

「いじめは、さまざまなストレス・疎外感が要因となって引き起こされるものであり、根本的に解決するには、子どもの自尊感情を育み、自己実現するための支援、子どもたちが安心して本音を語れる『居場所』が必要」

しかし、 いじめを止めなければ、被害者を救えないばかりか、加害者を「犯罪者」にしてしまいかねない。こうした部分に、善悪の基準を明確に示して厳しく指導することを「価値観の押しつけ」として避けてきた、戦後の教育界の誤りが表れている。

学校外のいじめ支援団体の広がり

2007年に活動を始めた、一般財団法人「いじめから子供を守ろう ネットワーク」(井澤一明代表理事、インタビュー参照)は、これまでに5000件を超える相談を受け、その9割以上を解決に導いてきた。

同ネットワークは、「いじめの具体的な日時や行為について文書をつくる」「やり取りをテープレコーダーで録音する」などの手法で、いじめの事実を学校側に提示することを勧めている。井澤代表は「教師がいじめをやめさせれば、いじめはすぐに治まる」と話す。

同ネットワークに相談して、いじめを克服した大阪府在住の主婦、西川好美さん(40代、仮名)は、娘が小学校5年の1学期になって、近所の人から「最近、笑わなくなったけど……」と声をかけられて驚いた。

話を聞くと、娘は学校で友達から悪口を言われたり、すれ違いざまに体格をバカにされるなどのいじめに遭っていることを打ち明けた。いじめは教師のいないところで行われていたため、担任教師もいじめを認識していなかった。西川さんは、事実を確認していじめをやめさせるよう依頼した。

しかし学校側は、いじめた子供の言い分を鵜呑みにするばかり。学校の主催で加害者の子供たちとその保護者、西川さん親子との間で話し合いをしたが、加害者は自分に都合のいいことを言うばかりで、校長や教頭も積極的に問題を解決しようという姿勢を見せなかった。

半年ほど学校に通い、繰り返し話し合いをつづけていたが、困り果てた西川さんは、同ネットワークに相談。同ネットワークが学校と教育委員会に連絡したところ、これまでの態度が一変。最終的に学校側も加害者もいじめの存在を認め、謝罪文を作成した。結局、娘は転校したが、現在は元気に登校している。

西川さんはこう話す。

「娘を守るために、学校側の誤りを正せたことは良かった。でも、 最初から学校側が適切に対応していれば、問題はもっと小さな段階で終わっていたはず。学校側の隠蔽体質が、関係者の傷を深く、大きくしました」

学校側は、子供たちが安心して勉強に専念できるようにいじめゼロを目指し、万が一いじめが起きたら、その都度、加害生徒を厳しく指導し、「いじめは許さない」という善悪の価値観を明確に示していく必要がある。

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次ページでは、いじめ解決の方法について、見解が異なる2人の識者に話を聞いた。