気のせいでなければ、この数週間で株価が下がり続けたのは、安倍政権が「守り」に転じたのがきっかけであったように思える。

予兆は5月15日の段階ですでにあった。

その日、自民党は夏の参院選公約のキャッチフレーズを「日本を、取り戻す。」に決めた。どこかで聞いたことがあると感じる人も多いと思うが、それもそのはず、これは昨年末の衆院選のキャッチフレーズと同じものだ。「参院選で国会のねじれを解消して初めて政権交代が完成する」との理由から、同じキャッチフレーズにしたと説明するが、「前回の選挙で大勝したゲンのいい文句をもう一度使いたい」との本音が透けて見える。

「守り」の姿勢が誰の目にも明らかになったのは、その一週間後の5月23日だった。

自民党が参院選の公約の原案をまとめたのだが、その内容が、昨年の衆院選の公約と比べて大きく後退したのだ。

  • 「名目3%以上の経済成長」から数値目標を削除
  • 原発再稼働→記述なし
  • 集団的自衛権の行使→削除
  • 憲法96条の改正→「96条」を削除

政策の重要課題をあいまいにして、反発を招かないように配慮した形だ。

各紙は24日付の朝刊で、この問題を報じたが、まさに株価が1日で1000円以上の暴落をしたのがこの5月24日だ。以来、日本の株価は完全に勢いを失ってしまった。

アベノミクスの効果で、株価が想像以上に高騰していたため、売り場を模索していた時期ではあった。いずれは調整局面に入るはずだったとはいえ、強気の政策を推し進めてきた安倍政権が弱気に転じた途端に株価も弱気に転じたのは、偶然とは言い切れないものを感じる。その後も、成長戦略を発表するたびに、市場の期待が次第に萎んでいき、株価も下落していった。

いずれにせよ、憲法96条の改正まであいまいにしたのは、多くの支持者の失望を誘ったに違いない。元々自民党は、「共産主義勢力と闘い」「現行憲法の自主的改正」を目的として、1955年に自由党と日本民主党が合併してできた政党だ。60%を超える高支持率を得ながら、憲法改正を明確に公約できないのであれば、自民党の政治的使命は終わったと言える。

いわんや安倍首相は、憲法改正を果たせなかった岸信介の孫として、自民党立党以来の悲願を成し遂げることを期待されて再登板した日本のリーダーだ。

この信頼を裏切った場合の代償は、株価の下落だけでは済まなくなるに違いない。(村)

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