中国の李克強首相は20日、訪問先の印ニューデリーで、シン首相と会談した。最近の両国関係は、領土問題で係争中のカシミール地方で、中国軍がインド側に侵入した事件をきっかけに冷え込んでいたが、会談では中国包囲網の回避を狙う中国側が融和ムードを演出した。

中国の覇権主義的な行動に対して、日米は中国との領土問題を抱える東南アジア諸国などと連携強化を積極的に進め、中国包囲網の構築を進めている。今回、李首相が最初の外遊先としてインドを選んだ背景には、「山河がつながる友好的隣国」(李首相)との関係を強化して、包囲網の動きにくさびを打ち込む狙いがある。

折しも、27日からはシン首相が来日する予定だ。その直前に中印首脳会談を設定して融和ムードを演出したことには、日本に対する牽制の意図も透けて見える。日印首脳会談では、福島での原発事故以降、棚上げになっている原子力協定について、両国が交渉再開で合意する見込みで、さらなる関係強化が進むことになりそうだ。

李首相はシン首相に今年秋の訪中を打診するなど融和演出に努めたが、両国間の隔たりは大きい。会談で両首脳は中印貿易を2015年までに1千億ドル(約10兆円)に拡大する目標を再確認したが、インドは280億ドルを超える対中貿易赤字に不満を持っている。またカシミールをめぐる領土問題や、中国がパキスタンの核開発に協力していることなども、インド側の中国に対する不信の種になっている。

中国との懸案を背景に日米との連携を強化しているといっても、インドが中国包囲網に積極的に加わるか態度を決めかねている。オーストラリアのシンクタンクが昨年行った世論調査では、84%のインド人が中国は脅威だと思うと答えているが、その一方で、「インドが中国包囲網に加わるべき」「インドは中国と一緒にリーダーシップを発揮すべき」と答えた人は、ともに65%ほどで拮抗している。

どっちつかずの世論に加えて、これまで非同盟主義を取ってきたインドが外交政策を転換するのは容易ではない。経済成長を背景にした国力増大をどう生かしていいか、インド自身が迷っているという指摘もある。米ボストン大のマンジャリ・ミラー助教授は、「インドのエリートは、『台頭するインド』という概念は西側が創り上げた見方ではないかと心配している。その見方は、インドの経済成長と国際的な貢献への期待を、非現実的に高めてしまっているからだ」と論じている(米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』5月/6月号)。

沖縄周辺で潜水艦を泳がせて日本を威嚇するなど、周辺国を威圧する中国の覇権主義の動きは、顕在化する一方だ。大国としての国力は、自由や民主主義、基本的人権を守るという世界の正義のために、積極的に用いなければならない。インドに大国としての自覚が芽生え、独裁中国に対する包囲網づくりに加わることを願いたい。

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