安倍内閣の支持率が高い。20日付の朝日・毎日の両紙が公表した世論調査では、いずれも65%を超える高い支持率となっている。だが安倍内閣は、北朝鮮のミサイル恫喝問題を脇に置いたまま、拉致問題の解決に向けて飯島勲・内閣官房参与を訪朝させるなど、参院選をにらんだポピュリズム(大衆迎合主義)路線を歩んでいるようにも見える。

朝日の世論調査では、内閣支持率は65%で、前回4月の60%よりも5%アップした。毎日の調査では、66%と、前回4月から横ばいだったが、いずれも高い支持率を維持していることが分かる。安倍内閣に批判的な両紙の調査で高い支持率が得られたことは、安倍晋三首相にとって大きな自信となるだろう。

だが、最近の安倍政権からは、ポピュリズムの傾向が見て取れる。村山談話などの歴史認識をめぐる軌道修正の問題もあるが、特にその傾向を強く感じるのは、北朝鮮問題についてである。

飯島勲・内閣官房参与は14日に北朝鮮を訪問し、4日間にわたって要人と拉致問題などについて話し合った。だが、当の北朝鮮は4月に散々ミサイル恫喝を行い、日本の主要都市を名指しして脅してきた国である。中距離ミサイルを発射台から撤去したとはいえ、金正恩政権は温存されたままであり、いつまた脅しを始めるかもしれない。

これに対して、安倍政権は「北の非核化を条件にした対話」など、アメリカと歩調を合わせるが、財政赤字を抱えるアメリカがこの問題に首を突っ込みたくないことは明らかである。

一方で、北朝鮮をコントロールしてきた中国は、北のミサイル恫喝の直後から、なぜか日本への強硬姿勢を際立たせている。尖閣問題について国防白書で日本を名指しで批判したり、監視船や軍用機を尖閣周辺の空・海域に大挙させたり、人民日報を通じて、沖縄も中国の領土と言わんばかりの主張を始めている。

もちろん、拉致問題は、関係者の高齢化が進むなどしており、一刻も早い解決が必要だ。しかし、東アジア情勢を大局的に見れば、日本の孤立化が進む中、北朝鮮はいまだ脅威のままであり、今後、危険度を増す可能性も十分ある。このタイミングで安倍政権が、念願とする拉致問題の解決に向けた交渉を始めたとすれば、これまでの北の横暴な振る舞いを不問に付したと見られても仕方がない。

また今回の飯島氏の訪朝は、安倍政権が参院選を有利に進めるための戦略の一つのようにも見える。しかし、北朝鮮がすでに日本全国に届くミサイルを持ち、日本全国民を“人質"にとっていることを考えれば、この問題を脇に置いて拉致問題の解決だけを優先させるのはあまりに危険である。

支持率も大事だが、政治家は、国が窮地に立たされていると判断したときは、国民が反対しても決断しなければいけないことがある。安倍首相の祖父・岸信介首相(当時)が、1960年の日米安保改定の際、首相官邸をデモ隊に囲まれて死をも覚悟したことを、引き合いに出すまでもないだろう。

安倍首相には、現在ただいまの支持率や数カ月先の選挙だけでなく、数十年、数百年先の日本、北朝鮮、中国、そして世界のあるべき姿を描きながら、政治のかじ取りを行っていただきたい。(格)

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