アメリカがサイバー攻撃に対する備えを整えている。米政府は、国外からの大規模なサイバー攻撃の危険を示す証拠があった場合に、大統領が先制サイバー攻撃を指示できるという内容を交戦規定に盛り込む方針だ。米ニューヨーク・タイムズ紙がこのほど報じたもので、数週間のうちに正式に承認される見通し。交戦規定は、軍隊などが、いつ、どこで、どのような相手に対して、どんな武器を使うか定めるマニュアルのことで、サイバー用の規定については2年以上にわたって検討が続けられてきた。

アメリカではニューヨーク・タイムズ紙などが、中国からのサイバー攻撃を受けたと公表し、話題になっている。同紙は温家宝・中国首相の蓄財疑惑を大々的に報じたことで、ターゲットになったものと見られる。

場合によってはインフラなどを麻痺させる恐れもあるサイバー攻撃は、安全保障上の脅威だ。その一方で、米メディアに対する今回の一連のサイバー攻撃は、中国側の弱点をさらすものでもある。党幹部の不自然な蓄財や汚職が明るみになれば、大規模な反政府デモが起こりかねないという、中国政府の不安が見え隠れするからだ。

中国はインターネットの厳しい検閲を行っているが、「国民の知る権利のためにサイバー空間を自由化せよ」という主張は、中国に対する外交上の重要なカードになる。

グーグル会長のエリック・シュミット氏と、同社シンクタンクであるグーグル・アイディア所長のジェレド・コーエン氏は、4月に「The New Digital Age(新しいデジタル時代)」という共著本を出版する。米メディアによれば、その中で両氏は「電子機器で武装したアクティブな市民と、政府による厳しい規制の組み合わせは、極めて危険だ」と述べ、中国が近い将来「何らかの革命(some kind of revolution)」に見舞われるだろうと論じているという。

両氏は、「アラブの春」が始まるひと月前に米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に寄せた論説の中で、携帯電話などで連絡を取り合う市民が独裁政府にとって脅威になると指摘。中東の民主化運動を予言したと話題になった。

またシュミット氏とコーエン氏らは先月、北朝鮮を訪問している。米政府は自粛を求めたが、それは表向きのジェスチャーで、実は北朝鮮解放を目指すアメリカの戦略の一環だという分析もある。米在住の作家兼ジャーナリストである冷泉彰彦氏は、米ニューズウィーク誌日本語版(電子版)への寄稿で「今回の北朝鮮訪問というのはオバマの意向をくんで、ITの力を使って『閉ざされた社会を開いてゆく』というストレートな意図を持った行動だと言えるでしょう」と論じている(1月11日付)。

独裁体制で国民を虐げる中国や北朝鮮といった国々に対しては、サイバー空間の自由化を求めていくことが、民主化への道を開く可能性がある。

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