パレスチナ自治区のガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスと、イスラエルとの戦闘が激化している。16日にはハマスが、イスラエルの二大都市であるエルサレムとテルアビブを標的に、ロケット弾を発射した。イスラエル側は、予備役の兵士を3万人から、2倍以上の7万5千人にまで拡充することを決めており、地上侵攻の準備を進めている。

今回の戦闘は14日、イスラエルがハマスの軍事拠点など20カ所以上に大規模な空爆を加え、軍事部門の最高幹部を殺害したことで始まった。これに対してハマスがロケット弾などで応酬した。

両者の間には、2009年初めのイスラエルによるガザ地区侵攻後に結ばれた休戦協定がある。しかし、今年に入ってからハマスは、イスラエルに向けてロケット弾を700発以上も発射しており、協定は有名無実化していた。

地域のパワー・バランスの視点から、注目されるのはエジプトの動向である。エジプトはイスラエルとの平和条約があり、これまではイスラエルと穏和な関係を保ってきた。しかし、民主化デモでモルシ新大統領が誕生してからは路線を修正し始めている。モルシ大統領の出身組織であるムスリム同胞団はハマスの母体でもあり、彼はハマスに融和的だからだ。

今回の戦闘を受けて、エジプトは着任して間もない駐イスラエル大使を本国に召還したほか、カンディール首相がガザ地区を訪問しハマスとの連帯を示すなどしている。エジプト国内では、パレスチナ側を支持する大規模な民衆デモも起きており、今後の政策に影響を与える可能性もある。

エジプトの立ち位置は、中東の新たな勢力図を判断するリトマス紙になりうる。15日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は「ハマスは、今やアラブ最大の国を統治する思想上の兄貴分(ムスリム同胞団)から、どれだけ支援を引き出せるか押してみている。またイスラエルのタカ派の指導者は同時に、モルシ氏が表明している平和条約の遵守の意思がどれほどのものかを、測ろうとしているように見える」と分析した。

「アラブの春」を契機に、中東では従来のパワー・バランスが崩れてきており、軍事衝突のリスクが高まっている。さらに国防費削減でアメリカの関与が希薄になってゆけば、さらに同地域の不安定化が進む恐れがある。

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