2008年1月号記事

PART1 アメリカ

保険の有る無しで天国と地獄──

映画「シッコ」が描く行き過ぎた市場原理の医療

「こんな橋の上で生まれたら、どうしよう」

アカネさん(当時33歳・仮名)は何度目かの陣痛に襲われながら、そう不安になった。

彼女を後部座席に乗せて夫が運転するフォードは、朝の通勤で渋滞するジョージ・ワシントンブリッジの上にいた。橋を渡った向こうはニューヨークのマンハッタン。今から4年前のことである。

夫の赴任に伴って前年アメリカに来たときは、現地で3人目を産むことになるとは思わなかった。夫が「アメリカ生まれでアメリカ国籍の子供がほしい」なんて言い出すから……。やがて着いたのはブロンクス地区にある低所得者用の病院。治安が悪いので、普通の日本人なら昼間でも近寄らない地区だ。

「スタッフも産みにくる人も、全部黒人。あそこで産んだ日本人は私だけかも」

実際そこでの出産は、日本のお産と相当違っていた──。