2011年12月号記事

2012年 世界はこうなる

国際政治からマヤの予言まで徹底予測

2012年、主要国や日本の周辺国で軒並みトップが交代する。世界の勢力図はどう変わり、日本は何にどう備えるべきなのか。さらには、マヤ文明の予言に基づく「2012年問題」がある。激動の2012年、日本と世界を取り巻く波乱含みの現実と、その中から人類が見出すべき希望の光とは――。

(編集部取材班)

2012年1月

台湾総統選挙

選挙に混乱が生じれば中国による介入も?

2012年12月

韓国大統領選挙

親米・親日のハンナラ党政権が継続するか否か

2012年

北朝鮮「強盛大国」の年

金日成生誕100年、金正日生誕70年の節目にどう動くか

2012年秋

中国共産党第18回大会

習近平氏が総書記に。

バブル崩壊や民主化はあるか

2012年3月

ロシア大統領選挙

プーチン氏の返り咲き確実。中露・米露関係はどうなる

2012年11月

アメリカ大統領選挙

民主党か共和党かで、国防政策に大きな影響が

岡崎久彦氏インタビュー

元駐タイ大使
岡崎久彦

(おかざき・ひさひこ)1930年大連生まれ。東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し外務省に入省。1955年ケンブリッジ大学経済学部学士および修士課程修了。1984年初代情報調査局長に就任。その後、駐サウジアラビア大使を務め、1988年より駐タイ大使。1992年退官。現在はNPO法人岡崎研究所理事長・所長。著書は『陸奥宗光とその時代』(PHP研究所)『真の保守とは何か』(PHP新書)ほか多数。

2012年世界はこうなる国際政治編 岡崎久彦スペシャルインタビュー【動画】
2012年は、日本の周辺国でトップが相次いで交代する。最大の焦点である米国の動きを中心に、中国、台湾、ロシア、韓国の各国でこれから何が起こるか。そして、いま日本がなすべきことは何か。2012年の「世界の見取り図」について国際政治分析のスペシャリストである岡崎氏に、本誌編集長が聞いた。

第1部 国際政治編

元駐タイ大使
岡崎久彦

(おかざき・ひさひこ)1930年大連生まれ。東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し外務省に入省。1955年ケンブリッジ大学経済学部学士および修士課程修了。1984年初代情報調査局長に就任。その後、駐サウジアラビア大使を務め、1988年より駐タイ大使。1992年退官。現在はNPO法人岡崎研究所理事長・所長。著書は『陸奥宗光とその時代』(PHP研究所)『真の保守とは何か』(PHP新書)ほか多数。

日米韓豪印の連携を継続せよ

オバマ再選は米国防政策にマイナス

――2012年は日本の周辺国のトップが交代します。まずオバマ再選があり得るか、共和党政権に変わりますか。

オバマ大統領はいま投票すれば負けると言われています。ということは、共和党にいい候補が出たら、共和党が勝つのでしょう。ただ、まだまだ分からないのは、今秋の議会の動向でどう変わるか分からない。最も大きいのは予算の問題です。

突き詰めて言えば、防衛費にどう影響するか。財政赤字削減を決める議会の超党派特別委員会は結論が出そうもない。民主党も共和党も妥協しようという人がメンバーの中にいません。

法律によれば、自動的に予算が切られ、防衛費のカットが最も大きくなります。これは米国の長期戦略に影響します。

――国防費を10年間に1兆ドル削減という数字も出ています。

オバマが勝つか共和党が勝つかで、米国の国防政策に大きな影響がある。オバマは国防政策については左傾化、リベラル化しています。 安全保障担当補佐官になったドニロンは防衛に関心なく、オバマはドニロンといると大変気分がいいらしい。

――ここにバイデン副大統領も加わる。

バイデンも左派です。コンサバティブ(保守派)と言えるのはクリントン国務長官と、パネッタ国防長官。

大統領選で共和党が勝つと、予算削減のための今の法律案は廃止で、防衛費増強です。 その意味で、米国の将来に向けてものすごく大きな選挙です。 オバマが勝つと、米国の防衛政策にマイナスの影響があります。

習近平体制で強硬路線が引っ込む?

――中国は習近平国家主席が誕生します。胡錦濤時代には、軍を本当にコントロールできているのか怪しいことが分かってきました。習近平時代にはどうなりますか?

軍が今のような強硬路線を続ければ中国に損になることはだいたい分かっています。 私の分析では、来年の党大会で習近平国家主席になってからは、ひょっとしたら穏健化するのではないかと思います。

オバマ大統領は09年11月の訪中に合わせ、中国を怒らせることを全部やめました。台湾に武器を売らない、ダライ・ラマに会わない、ウイグル弾圧を批判しない。米国が甘やかしている間に中国のタカ派勢力が強くなって権力闘争が起きたわけです。

ただ、習近平体制に代われば、権力闘争に決着がついて、引っ込むのではないかと私は思っています。

これは、歴史的な観察ですが、冷戦期に西側にとって最も困ったのは平和攻勢です。その可能性もあるかと思っています。

――逆にソ連の場合、共産党の指導が軍にも通っていましたが、中国の場合、不安があります。

かえって強硬化する可能性もありますが、まだ米国のほうが(軍事的に)強いから、やれることはないですね。

台湾総統選が無効になる嫌なシナリオ

ただ、一つだけ嫌なシナリオがあります。

台湾の総統選挙が来年ありますが、本来は4月だったものを1月に切り上げ、立法院選挙と一緒に行うことにしました。それを決めた国民党(政権)が有利と言われていますが、投票率が上がると(野党の)民進党に有利なんです。台湾一般の民意は独立したいですから。

それで嫌なシナリオは、もし民進党が勝つとすると、憲法上、総統が交代するのは5月です。その間、国民党が本当に総統の座を明け渡すかどうかという問題があります。 それはいくらでも方法があって、「選挙違反があるから、この投票は無効だ」とか。

――陳水扁前総統も逮捕されました。

裁判にかけるとかいろんな方法がある。それに対する反対デモになって騒乱状態になると、(中国が)介入するチャンスが出てくる。中国のタカ派がまだ強い時期です。来年の前半が最も危険なシナリオです。まだ議論されていませんが、民進党が勝ったとたんに、みな心配しますよ。

プーチンは親中かつ対中警戒

――ロシアはプーチン首相が大統領に返り咲くことが決まりました。

昨年11月、横浜でのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議にメドベージェフ大統領は、北方領土の国後島を視察してからやって来ました。そのとき菅直人首相は会談を断るべきでした。「今回はやめましょう」と言うべきでした。そうすると、ロシアもある程度は民主主義だから、「メドベージェフが余計なことをやって日露関係を悪くした」ということになります。

――次の大統領がまだ決まっておらず、プーチンとの支持率合戦の状態だった。

そこでメドベージェフが失敗したということは、プーチンにとって悪い話ではない。菅氏は絶好のチャンスを逃しました。

――プーチン氏は親中のニュアンスもあるが、基本的に中国を警戒していると見ていい?

両方でしょう。結局、どの国でも最も大事なのは対米関係ですから。中国や中央アジアの各国を含めた上海条約機構が米国に対する圧力になれば、それは使えますよ。と言っても、米中関係が悪化する中で中国に肩入れして、米露関係も悪くなるようなら使いません。

ロシアの軍が北方領土に出て来ているのは、(ソ連崩壊後)貧乏をしていて、いまやっとお金ができて艦隊を造れるようになったからです。 米軍に対しては「中国への牽制だ」と言っているらしい。だから、今後も(親中と対中警戒の)両方を使うでしょう。

――韓国は李明博大統領の後継としてハンナラ党が勝つか、野党が奪回するか。

朴槿恵がハンナラ党の候補になると、勝つでしょう。(父親の)朴正煕大統領が懐かしいという人がたくさんいますから。朴さん本人は女性だし、清廉です。今のハンナラ党政権が続くなら、米国にとっても日本にとっても楽です。ただ、ハンナラ党が割れる可能性があります。野党が勝つと、嫌がる人が(日米に)いますね。

岡崎氏の指摘する日本の外交・安全保障政策のポイント

■ 日米同盟を中心にすえる

■ 日米韓豪印の連携を継続

■ 集団的自衛権行使を容認

ヒラリーが構想した対中包囲網の継続を

――米国の国防費削減を考えたときに、日韓豪が米国と結びついていれば大丈夫だという議論が米国でも出ています。

それがまた崩れる可能性がある。それが心配ですね。

――その中で日本はどういう道筋を描いていくべきでしょうか?

クリントン国務長官が描いたのは、米日韓豪印の連携。これが続けばいいんです。

昨年11月のAPEC首脳会議は明らかに中国包囲網です。クリントンはグアムを回って、ベトナム、タイ、マレーシア、ニュージーランド、オーストラリアなどに行ってから日本に来ました。出発時に明らかに中国包囲網と読める大演説をしています。

オバマはインド、インドネシア、韓国を回ってから来日しました。でもオバマは出発時の寄稿で、「アジアに米国の製品を売り込んで雇用を増やす」としか言っていない。これは意図的にクリントンの米日韓豪印連携の構想を消しこんでいます。オバマ政権が続くと、この構想をやる気がないかもしれない。

――日本の外交・安全保障政策として、「これをやれば大丈夫だ」というポイントは?

ポイントはもう、集団的自衛権の行使を認めることに尽きます。野田佳彦首相のものの考え方は安心できます。日米同盟中心だし、集団的自衛権の行使も支持しています。ただ、それを実行できるかどうか。

今やっていることは、党内融和で派閥均衡でやっている。政調会長を前原誠司さんにして、官邸に信頼の置ける人を集めて政策をやろうとしていますが、うまくいくかどうか。各大臣は権限を持っていますから、「俺知らない」と言われると動かない。

党内融和と権力保持のためには衆院選をやらない。民主党の代議士は、今度選挙をしたら落ちる人ばかりだから。だからひょっとすると、任期満了の衆院選かもしれない。2年間できると、(集団的自衛権行使容認などの)政策も実現できます。自民党には気の毒ですが、その可能性はあります。

2012年世界はこうなる国際政治編 岡崎久彦スペシャルインタビュー【動画】
2012年は、日本の周辺国でトップが相次いで交代する。最大の焦点である米国の動きを中心に、中国、台湾、ロシア、韓国の各国でこれから何が起こるか。そして、いま日本がなすべきことは何か。2012年の「世界の見取り図」について国際政治分析のスペシャリストである岡崎氏に、本誌編集長が聞いた。