福島県南相馬市の農家が出荷した牛の肉が放射性セシウムに汚染されていた問題は、福島県産の牛肉だけでなく、牛肉そのものが敬遠される事態に発展している。しかし、「汚染牛肉」は本当にメディアが大騒ぎして、問題にするような話なのか。

報道されているのは、福島県南相馬市の畜産農家が出荷した牛17頭の肉。セシウム汚染の稲わらを牛に食べさせたため、1キログラム当たり1530~4350ベクレル(暫定基準値500ベクレルの約4~8倍)が検出され、牛肉の一部はすでに消費された。

このほか、新たに汚染稲わらを牛に与えていた農家5戸が福島県内で16日明らかになり、84頭がすでに出荷されたという。また、大震災の3月11日以降、立入禁止の警戒区域(20キロ圏内)周辺から5000頭以上の牛が出荷されたという報道もある。

では、この「汚染牛肉」にどのくらい害があるのか。暫定基準値の1キログラム当たり500ベクレルは、体内に取り込まれたセシウムが発する放射線量を年間5ミリシーベルト以下になるように設定されている(飲料水、野菜など品目ごとに設定)。アメリカでは1200ベクレル、ロシアでは130~150ベクレルで、ばらつきがあるので、絶対的な数値ではない。

基準値の1キログラム当たり500ベクレルの牛肉を200グラム食べたときの被曝線量は0.0016ミリシーベルトになるという。何もしなくても食物から年間0.25ミリシーベルトを自然に摂取しているので、まったく健康に影響のないレベルだ。

仮に、1年間、毎日食べ続けても被曝線量は約0.6ミリシーベルトで、胃のX線検査1回分である。

今回の「汚染牛肉」も健康上、問題にならない。例えば3200ベクレルの牛肉200グラムを1年間食べ続けて被曝線量は3.7ミリシーベルト。これでやっと病院のCTスキャン1回(6.9ミリシーベルト)の半分程度にしかならない。

なお、チェルノブイリ原発事故では、放射性セシウムによる健康被害は報告されていない。

福島県当局は今後、出荷される牛を全頭検査するという。万全を期すために必要なのかもしれないが、それによってレントゲン検査よりはるかに少ない被曝を防ごうというのは、何とも虚しい作業に思える。

少なくとも、メディアが恐怖心を煽って雑誌の売り上げや視聴率を伸ばそうという卑しい魂胆は、もうやめにしてもらいたい。「汚染牛肉」をめぐって大騒ぎするならば、是非ともレントゲン検査の廃絶キャンペーンを起こしてもらいたい。(織)

※以前の本欄では、牛肉を食べた際の被曝線量について、一部の数値や表現に誤りがありました。現在の表現に訂正し、お詫び致します。