豊富な資源が眠る南シナ海の領有権を巡って、東南アジア諸国連合(ASEAN)と対立していた中国が、一転して積極的な「微笑み外交」を展開している。

中国はベトナムに対し、5月と6月に資源調査船のケーブルを切断するなどの妨害活動を行った。だが、6月下旬には、北京にベトナムの外務次官を招き、外交のトップである戴国務委員と会談させ、「両国の海上での係争を平和的に解決する」ことで一致した。

フィリピンに対しても、今年2月に、中国海軍の艦艇が、南沙諸島近くで漁をしていたフィリピン漁船に向けて威嚇射撃を行うなどして対立。しかし、中国は7月8日、フィリピンの外相を北京に招待して楊外相と会談させ、紛争の平和的解決を目指すことで一致。次期指導者の習近平・副国家主席とも会見させ、友好関係を演出した。

こうした中国の「微笑み外交」の裏には、7月下旬にインドネシアで開かれる、日米中なども参加するASEAN地域フォーラム(ARF)での孤立化を避けたいという思惑がある。また、ASEAN諸国は南シナ海の問題については、米国の支援を受けながら多国間協議によって解決する方針でまとまっているが、中国はこれを分断して2国間での解決を目指している。

中国は、南シナ海に権益を持たないミャンマーやカンボジア、ラオスなどの国に対しては、すでに海外直接投資や政府開発援助などで資金や技術をつぎ込み、中国抜きでは成り立たない経済体制へと誘導している。

9日、日本の海上自衛隊は、米国とオーストラリアの両海軍と、南シナ海で初の共同訓練を実施したが、この狙いは南シナ海に進出する中国の牽制だ。日本は引き続き、民主主義国家と連携しつつ、中国に自制を促せるほどの防衛力や経済力を強化していかなければならない。(格)