2011年8月号記事

パキスタンのギラニ首相は、5月の北京訪問に際し「中国は全天候型の友達」と強調し、中国との蜜月関係をアピールした。

国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディン氏が、米軍の作戦によってパキスタン領内で殺害された事件は、すでに冷え込んでいた米パ関係の悪化にさらに拍車をかけた。テロとの戦いの大元締めが領内に潜伏していたことで、アメリカは同盟国・パキスタンへの不信感を強めたが、一方でパキスタンは事前通告のない米軍の作戦を主権侵害と非難した。

パキスタンはタリバンなどのテロリストを、インドとの戦いのために温存してきた経緯があり、同盟国ながら、アメリカのテロとの戦いにはあまり乗り気ではない。

パキスタンの「チャイナ・カード」

テロとの戦いへの協力を求めるアメリカの外交圧力をかわすべく、パキスタンはこの頃「チャイナ・カード」を積極的に使っている。5月23日には南部のグアダルに、中国による軍港建設と中国海軍駐留を要請したと発表し、アメリカを牽制した。

英紙フィナンシャル・タイムズのコラムニストであるデビッド・ピリング氏は5月26日付同紙で、「これは新しい展開だ。北朝鮮やビルマといったのけ者国家を除けば、これまで中国をアメリカに対抗できる強国と見なす国はなかった。(中略)今やパキスタンは、中国が経済の仲間であると同時に、信頼できる軍事的パートナーだとほのめかしている」と論じている。

パキスタンは地政学的な要所で、アメリカや中国、インド、ロシアなど周辺の大国の国益が交錯する。パキスタンへの接近で、中国は敵対するインドを牽制すると同時に、イスラム教徒が住むウイグル自治区への過激派流入を防ぎ、資源の輸入ルートを得るという利益を見出しているとされる。

米誌ナショナル・インタレスト(電子版)は6月3日付で、「オサマ・ビンラディンが死に、米軍のアフガン撤退が迫る中で、アメリカの戦略におけるパキスタンの役割は低下せざるを得ない。それは中国にとってパキスタンの重要度が増すことを意味する」と論じている。

アメリカが手放せない要所

パキスタンが中国との友好関係を「全天候型」と呼ぶ背景には、アメリカの地域政策に対する不満がくすぶっている。冷戦中のアメリカはソ連の南下に対する防波堤としてパキスタンを支援したが、冷戦終結によってソ連の脅威が去ると、パキスタンへの援助をあっさりと打ち切ってしまった。

アメリカは2001年の同時多発テロ以降、年200億ドルを超える経済援助をテコに、アフガンにおけるテロ掃討作戦へのパキスタンの支援を引き出したが、自らの事情で援助を決める手法は「都合が良すぎる」という批判の的となり、パキスタン国民の根強い反米感情につながっている。

しかし、アメリカにとってパキスタンが同盟国として信頼するに足らないとしても、同国への関与にはアメリカの国益がかかっている。たとえば、開戦から10年が経とうとしているアフガン戦争では、パキスタンがNATO(北大西洋条約機構)にとっての重要な補給ルートになっている。

米軍は今年7月に撤退を開始し、2014年には治安権限をアフガン政府に引き渡す予定だ。米軍撤退に際してはタリバンとの和平工作も模索されているが、その枠組みをめぐって、隣国のパキスタンも少なからず関与することになる。

さらなる懸案は、パキスタン政府の脆弱さである。パキスタンの核保有数は増加しているが、文民統制が弱く、核兵器がテロリストの手に渡るのではないかと懸念されて久しい。しかも、印パの因縁の戦いと、覇権主義を強める中国の介入を考えれば、アメリカにとってパキスタンはますます手放せない要所である。

幸福の科学の大川隆法総裁は、6月7日に行われた 幸福実現党・立木秀学党首との対談の中 で、次のように述べている。「アメリカがパキスタン外交で間違いをしないように、日本は同盟国としてウォッチしなくてはいけない。(アメリカと中国による)パキスタン争奪戦なんです。韓国に対する盾が北朝鮮であるように、中国がパキスタンをインドに対する盾に使えたら、インドと直接交戦をしないで、緩衝材を設けてパキスタンで代理戦争が起こせる」。

米軍のアフガン撤退を前に始まった米中によるパキスタン争奪戦は、一歩間違えば、中国の覇権主義を増長し、中パによるインド包囲戦を誘発しかねない。アメリカは感情的な議論に陥ることなく、地政学的な要素を考慮してパキスタンとの関係を継続すべきである。