2011年7月号記事 "Newsダイジェスト─国際"

エジプトで、かつて過激派として恐れられた組織による政党結成宣言が相次ぎ、元過激派が政治参加を志向する傾向が加速している。

5月、「ジハード団」の元幹部アッブード・ズムル氏が、新政党「安寧と発展党」を結成して政治参加を目指すと発表。同じく過激派として知られた「イスラム集団」もすでに政党結成を宣言している。この現象をどう捉えるべきだろうか。

レザー・アスラン
レザー・アスラン
宗教学者。1972年テヘラン生まれ。イラン革命時に両親とともにアメリカに亡命。宗教史博士。米カリフォルニア州在住。著書に『仮想戦争』『変わるイスラーム』(ともに藤原書店刊)がある。

両組織とも90年代までは活発に活動をしていたが、ムバラク政権との死闘の末、テロ活動組織としては事実上壊滅した。しかし、暴力活動が沈静化した別の要因として、ズムル氏のように、獄中にあって政権側と交渉していた指導層が次第に穏健化し、過激な実行部隊を抑えてきたことも大きい。「過激派の穏健化」は社会の安定に欠かせないのだ。

そして、本誌4月号に登場した気鋭の宗教学者レザー・アスラン氏は、過激派組織に政治参加の機会を与えれば穏健化するケースがあると指摘している。だとすれば、中東社会の安定のためにも、民主化による旧過激派の政治参加を忌避すべきではないだろう。

もちろん、中東が平和裏に発展するには民主化のみでは不充分で、人権思想の浸透、貧困や教育格差の解消などが必須だ。また、反イスラエル感情の強い地域だけに、民主化と同時並行してイスラエルとの関係改善を図るには、きわどい政治運営が求められるだろう。しかし、政治参加のオプションが開かれることで過激派が暴力と決別していくならば、それ自体は発展のための基礎として歓迎したい。