香港行政長官の林鄭月娥氏。写真:Yu Chun Christopher Wong / Shutterstock.com

《本記事のポイント》

  • 香港自治法の制裁対象者が発表され、金融機関はまもなく米中の踏み絵を迫られる
  • 中国は、アメリカの金融制裁から逃れるため、「デジタル人民元」の実用化を急ぐ
  • アメリカは、テンセントに加え、アリババのアリペイも制裁か

米国務省が14日、7月にアメリカの国内法として成立した香港自治法に基づき、「香港の自治侵害」に関与した10人の制裁リストを公表した。リストには、香港行政長官の林鄭月娥氏や、香港保安局局長の李家超氏、香港警察処長のトウ炳強氏らが含まれた。

香港自治法の特徴は、制裁対象者と「多くの取引」がある金融機関に対しても、二次制裁を行える点にある。米財務省はリスト公表から30~60日以内に、二次制裁の対象を決定。早ければ11月にも発表する見通しだ。その後、米大統領が1年以内に制裁を科すか判断を行う。

金融機関は米中の踏み絵を迫られる

具体的な制裁としては、「外国為替取引・貿易決済の禁止」や「米金融機関からの融資・米国債の入札の禁止」、「資産の移動禁止」、「技術などの輸出制限」などが挙げられる。

最も強力な制裁は、「外国為替取引・貿易決済の禁止」(米ドルの使用禁止)である。世界の貿易の多くがドルでやり取りされていることから、ドルの使用を禁じられれば、金融機関を含むグローバル企業は事実上、事業を継続できなくなる。

一方、金融機関がアメリカに従い、制裁対象者の口座を凍結した場合、中国政府から「外国勢力との結託」とみなされ、報復される恐れもある。つまり、米中から踏み絵を迫られ、双方に配慮できない事態に陥る。特に、香港ビジネスを重視するイギリスのHSBCやスタンダード・チャータード銀行は大きな影響を受けるだろう。

テンセントに加え、アリババのアリペイも制裁か

中国は、こうしたアメリカの金融制裁から逃れるため、中央銀行が発行する「デジタル人民元」の実用化を急いでいる。中央銀行の中国人民銀行は、10月9日より深セン市で、デジタル人民元の消費券を5万人の市民に配布するという大規模な実証実験を行っている。

中国では、アリババの関連会社アントが運営する「アリペイ」や、テンセントの「ウィーチャット」などのキャッシュレス決済が定着。中国政府は、デジタル人民元を普及させる環境が整ったと見て、実用化に向けた準備を加速させ、2022年の北京冬季五輪までに実現したいと見られている。

デジタル人民元は今後、民間のキャッシュレスと互換性を持つのか、競争関係にあるのかは、依然として不透明である。もし互換性を持つなら、一気に普及する可能性もある。

米国務省はその機先を制して、事実上の制裁リストであるエンティティリストにアントを加えるよう、ホワイトハウスに提案した(15日付ロイター通信)。すでにウィーチャットは大統領令によって、アメリカ国内での使用が禁じられた(大統領令の効力は米連邦地裁が一時的に停止)。アントも制裁となれば、中国の大手キャッシュレス決済事業者はアメリカから排除され、デジタル人民元の普及も困難になる。

ドルの覇権を守りたいアメリカとしては、中国の決済システムが世界を支配することは何としてでも阻止しなければならない。13日に開いた主要7カ国(G7)の共同声明でも、デジタル通貨を発行する条件として、透明性の確保や法の支配などを挙げ、中国をけん制した。

米中の金融戦争が徐々に本格化しつつある今、アメリカの同盟国である日本も、うかうかしてはいられない。中国共産党の独裁を押しとどめる「兵糧攻め」に協力し、中国依存からも脱却すべきだ。

(山本慧)

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