新疆ウイグル自治区のヤルカンド県にある、「強制収容所」とみられる施設。

《本記事のポイント》

  • スウェーデンのH&Mが、強制労働に関与した中国メーカーとの取引を停止
  • ウイグルの人権団体によれば、自治区には収容所などが500カ所近くあるという
  • サプライチェーンと労働力の関係性が複雑化し、実態を分からなくさせるのが中国の狙い

スウェーデンのアパレル大手「H&M」は、中国西部にある新疆(しんきょう)ウイグル自治区での強制労働に関与した中国メーカーとの取引を停止し、同自治区からの綿花の調達をやめることを、このほど発表した声明で明らかにした。

この問題は、オーストラリアのシンクタンクが今年3月に公開した報告書で指摘したもので、国際的な批判が巻き起こり、H&Mは今回の決定に至った。

H&Mが声明を出す直前の14日に、トランプ米政権は、ウイグルで生産された一部の製品が、強制労働によって作られた疑いがあるとして、輸入禁止措置を発表していた。

ウイグルの強制労働問題は、国際労働法に反する明確な人権侵害だ。中国に進出する各企業は、国際法の順守というコンプライアンスの問題として、対応に乗り出す必要に迫られていた。

自治区には収容所などが500カ所近くあるという報告

ウイグル問題が再びクローズアップされる中、新疆ウイグル自治区に存在する強制収容所は一体、どれぐらいあるのか。

グーグルアースの画像を調査した人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は、収容施設や刑務所などが500カ所近くあるとし、そのうち「強制収容所」とみられる施設を182カ所特定している。その一部を紹介すると、次の通りだ。

ヤルカンド県

カルギリク県

マラルベシ県

クチャ市

ウルムチ市

チャルチャン県

ニヤ県

ケリヤ県

このような施設が自治区の各地に点在していることは、グーグルアース上で確認できる。

強制労働の実態調査が難しい理由

今回のような強制労働問題の解決を難しくさせているのは、企業側がそれに関与していないことを証明するのが、一筋縄ではいかない点だ。

ウイグル人には、収容所で「洗脳」され、そこから"卒業"できると、他省に移送され、労働を強いられる人が多数存在している。サプライチェーンに組み込まれた中国メーカーは、警察当局と連携した監視体制や劣悪な労働環境の下、まとまった数で働かせることができるとして"重宝"している。

ウイグルの強制労働者は中国全土に広がっているため、自治区という場所に限った話ではない。サプライチェーンと労働問題の関係性が複雑に絡み合っているため、強制労働の真相を究明することが難しい。まさに中国政府の狙いはそこにあり、ウイグル弾圧の実態がバレないよう改革を進めてきたと言える。

中国の人権弾圧に関与していないことを証明する試みは、今後も「いたちごっこ」が続くだろう。となれば、論理的な帰結先は、「中国からの撤退」が企業のリスク分散という意味で、最も望ましい選択肢と言わざるを得ない。

(山本慧)

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