《本記事のポイント》

  • 国が行う再配分は、他の人から奪うという意味で非道徳的
  • 市場によって「不正義」が起きるのではなく、政府が権力を肥大化することで「不正義」が起きる
  • 歴史を振り返ると、宗教的コミュニティ等を通じて社会保障は行われてきた

アメリカでは、社会主義を肯定的にとらえる若者たちが増えている。ギャラップ社が2019年11月に発表した調査では、18歳から34歳のミレニアル世代の過半数にあたる52%が社会主義を肯定的にとらえ、否定的と答えた45%を上回った。

次世代において、社会主義にシンパシーを感じる者が多数派となれば、トランプ政権後アメリカは徐々に後退していくことになるだろう。

格差是正を目指し富裕層に対し敵対的になる風潮が強まれば、すでに社会主義的な経済政策に傾斜している日本の未来にも影響を及ぼすことになるだろう。

アメリカの若者たちはなぜ社会主義に共感しているのか。全世界で自由主義経済を根付かせるために活動する米経済学者・クリストファー・リングル氏に話を聞いた。

(聞き手 長華子)

哀れみを持つなら自発的な手助けを

経済学者

クリストファー・リングル

プロフィール

(Christopher Lingle)1948年、アメリカ・ジョージア州生まれ。1977年にジョージア大学大学院で経済学の博士号を取得。シンクタンク、センター・フォー・シビル・ソサイエティのフェロー。アトラス・ネットワークで自由主義の活動家を育成。著書に、Understanding China's Socialist Market Economy(『中国の社会主義的市場経済を理解する』)など多数。

──なぜアメリカでは、社会主義に共感する若者が増えているのでしょうか。

クリストファー・リングル氏(以下、リングル): IT時代のアメリカでは、昔のように工場を建てるなど物理的な資本を投下することなく、人的資本の中にある「ブレイン・パワー」を使って、アプリを販売できる時代となりました。少ない資本投下で他の人に喜ばれ、大儲けできる時代です。

実は、これが「お金儲けがこんなに簡単なら、お金儲けができない人に配って何が悪い」という風潮を生んでいます。

しかし、私たちが若者たちに伝えなければならないのは、恵まれない境遇にある人たちに哀れみの心を持つのなら、自発的に助けるべきであって、国が再分配する役割を担うべきではないということです。

国が介入するのは一見良いことに見えるかもしれません。しかし実態は、ある者から奪い取り、別の人に配る行為に他なりません。奪われた人は別の人の奴隷になってしまうのです。

私は、国が行う再配分は「他の人たちから奪う」という意味で、非道徳的だと考えています。自発的に行われた慈善行為のみが、道徳的な行為と言えるからです。

私は個々人の道徳を寄せ集めたら、国家という機関が道徳を持つようになるとは考えていません。人間だけが道徳心を持つことができると考えています。道徳とは人間の行為であり、人間の交流の中に生まれるものだからです。

『最低賃金15ドル』運動はなぜ起きる?

──最低賃金15ドルを求める運動が起き、最低賃金が引き上げられた州も多くあります。

リングル氏: その運動にかかわっている人たちは、「資本主義は不正義を生む」と考えています。それは「富の創造」についての誤解から起きています。

考えてみてください。美しい女優が、その美しさゆえに女優として成功します。その美しさは、持って生まれたものです。誰かの知性が他の人よりも高いこともそうでしょう。これは不正義ではありませんね。

子供も、ご両親がいたほうが、教育を受けて成功する比率が高くなります。片親しかいない場合は、教育が受けられず、成功しない可能性が高くなる。でもそれは不正義ではなく、現実なのです。シングルマザーにとっては、たいへんな問題だと思いますが、不正義ではないのです。

多くの若者は「不正義は市場を機縁として起きる」と考えていますが、市場は人間の行為や意思決定が交換される場でしかありません。

むしろ不正義は、政府が政治的権力を拡大し、人間の自由を制限する場合に起きます。政府の肥大化する権力を制限するために、私たちは戦わなければなりません。

政府が国民の老後の面倒を見る社会は、過大な権力を政府に与える

──持続可能な社会保障はどうあるべきでしょうか?

リングル氏: いま問題なのは、自分たちの老後を国家に依存するメカニズムが出来上がってしまっていることです。

私たちは、自分自身や、家族、ご近所のコミュニティに頼るべきです。なぜなら、その方が直接的なコミュニケーションがあって人間的ですし、持続的な社会保障だからです。

でも国家が福祉や社会保障に介在すると、どうなるでしょうか。彼らは"午前9時から午後5時まで仕事をすればよい官僚"です。私たちが必要な時、彼らは側にいてくれません。一方、コミュニティは違います。24時間、彼らは側にいてくれます。

歴史を振り返ると、絶対君主が君臨していた時を除けば、宗教的なコミュニティ等を通して、私たちは互いに面倒を見合っていたのです。それはとてもよく機能していましたし、政府が面倒を見るより、はるかによいものでした。

すべての国家は、社会保障および年金のシステムを、自発的で市場原理にかなったものにすべきです。そのほうが公正であり、正義にかなっているからです。そうでなければ、非人間的で非効率で、かつ安定性を欠いたものになります。

問題なのは政府に過大な権力を与えると、私たちは専制君主下の体制に逆戻りをしてしまうことです。制限政府(小さい政府)が必要だということを再発見しない限り、古代返りすることになります。

民主主義とは人間の自由を確保するためのものです。しかし現在の民主主義は、絶対君主や専制君主に近い政府に権力を渡して、補助金を要求するような類のものになってしまっています。しかもそれは一般市民にとって何の恩恵もありません。

【関連書籍】

『現代の自助論を求めて』

『現代の自助論を求めて』

大川隆法著 幸福の科学出版

【関連記事】

2019年11月30日付本欄 若者たちが急速に左傾化するアメリカ:若者の7割が社会主義者に投票予定

https://the-liberty.com/article/16537/

2019年1月号 消費税10%で年90万円損する まだ増税は止められる!

https://the-liberty.com/article/15124/

2019年12月14日付本欄 働き盛りの中間層を直撃する「福祉国家」 高所得者からの再分配は「幻想」にすぎない

https://the-liberty.com/article/16568/

2019年12月27日付本欄 大型減税法案成立から2年 トランプ減税はブルーカラーや中所得者の味方

https://the-liberty.com/article/16632/