仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作」と評価されても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

今回は、自分の外見に自信が持てない人に向けたものです。

◆                   ◆                   ◆

(1)「ハンサム・スーツ」(★★★★☆)

まず、ご紹介する映画は、「ハンサム★スーツ」(2008年、日本映画、115分)です。着るだけでハンサムに変身する"ハンサム・スーツ"を手に入れたブサイク男が、外見と内面のどちらが本当の幸せにつながるかを描くハートフル映画。

33歳の大木琢郎(塚地武雅)は、亡くなった母親が残した定食屋「こころ屋」を継いで、確かな料理の腕前で繁盛していました。ただ問題なのが、ブサイクであること。異性関係を持った経験はなく、いびつな「外見コンプレックス」を持っていました。

ある日、琢郎の元に、若くて美人な寛子(北川景子)がバイトの応募でやって来ます。一目ぼれした彼は寛子に告白しますが、好きになった理由を聞かれ、「外見で決めた!」と即答。あっさり振られ、寛子は店から出ていってしまいます。

自暴自棄になった琢郎ですが、ひょんなことから着るだけでハンサムになれる「ハンサム・スーツ」を手に入れます。顔も体型もハンサムになった琢郎は、光山杏仁(谷原章介)として瞬く間に人気カリスマモデルとなり世間の脚光を浴びます。早速、彼は杏仁に変身して寛子に会いに行きますが、再び振られてしまいます。

気落ちして、こころ屋に戻る琢郎ですが、寛子の代わりにバイト入りした、ブサイクでも仕事は完璧、性格美人の本江(大島美幸)に病んだ気持ちを癒されていきます。「外見がすべて」と信じ込んできた琢郎の信念が揺らいだ瞬間でした。

世間の注目を浴びる杏仁生活にも、徐々に矛盾を感じてきた琢郎は「本当に大切なのは、人間の内面である」と悟ります。

そんな彼にどんでん返しがやって来て、感動のクライマックスが!

琢郎のように、自分の容姿や体にコンプレックスを持つ方は少なくなりません。これが高じて日常生活に支障が生じるレベルになると、「身体醜形恐怖症(しんたいしゅうけいきょうふしょう)」と診断され治療が必要になります。

有名なのが、マイケル・ジャクソンです。彼は何度も整形手術を受けて、自分の鼻が崩れてしまいました。

ただ、そこまで行かなくても、「外見コンプレックス」が無意識に幸福感の妨げになってしまうことが多く見受けられます。

ポジティブ心理学の先行研究では、「人間の幸せは、内面で決まる」ことが分かっています。外見、収入、地位、名声、学歴などの社会的な評価基準はありますが、本作のように内面が変われば、見える景色は変わり、「本当の幸せ」がやって来るのです。

(2)「愛しのローズマリー」(★★★★★)

次の映画は、「愛しのローズマリー」(2001年、アメリカ映画、114分)。外見で女性を判断してしまう男の改心劇を描いています。

大手優良投資信託会社に勤めるハル(ジャック・ブラック)は、父親の遺言により、外見でしか女性の価値を判断しなくなっていました。そんな彼を、周囲の女性たちも敬遠気味。

そんなある日、偶然出会った成功哲学の大家アンソニー・ロビンス(本人が出演)が、彼に人生を変える"暗示"をかけます。ハルの目には、「心の美しい女性が美しく見え、そうでない女性はいくら美人でも醜く見える」ようになってしまいます。

そして病院のボランティア活動をしながら平和部隊への再入隊志願を待つ、体重136キロの女性ローズマリー(グウィネス・パルトロウ)と出会い、恋におちます。心配したハルの親友は、アンソニーから催眠術を解く方法を聞き出し、ハルの暗示を解いてしまいます。するとハルは、本当の姿のローズマリーと対面することに。

果たしてハルは、ローズマリーの外見を受け入れ、本当の愛を手に入れることができるのでしょうか──。

肉体的容姿は年齢とともに衰えていきますが、「心の美しさ」は、肉体年齢とは関係ない「普遍的なもの」です。頭では分かっていても、そうした肉体的な考え方に引っ張られていくのが凡人の姿です。

本作は、人生で「何が本当に大切なのか」を原点回帰させてくれます。

(3)「カンナさん大成功です!」(★★★★☆)

「カンナさん大成功です!」(2009年、日本映画、110分)は、鈴木由美子さんの人気コミックを実写化したラブ・コメディ映画です。

ブスであるせいで、神無月カンナ(山田優)は、幼い頃からいじめられ放題でした。それは、大人になって縫製工場で働くようになっても変わりません。

ところがある日、優しく声をかけてくれた蓮台寺浩介(永田彬)に一目ぼれしたカンナは、貯金をはたいて全身整形に挑戦。超美人に生まれ変わります。

こうしてカンナは、浩介に近づくために、彼が勤める会社の受付嬢に転身。しかし、浩介の会社には、美しいだけでなく仕事もできる完璧な美女たちがいます。

「美人にもランクがある」ことを知ったカンナは、彼女らの立ち振る舞いを研究し、本物の美女に近づこうと奮闘します……。

本作のカンナが悟ったように、結局、外見ではなく、その「内面を磨く」ことが運勢を上げます。幸運をつかむために、「性格美人」「性格ハンサム」になりたいものです。

他には、以下のような映画がオススメです。

「体脂肪計タニタの社員食堂」(★★★☆☆)

世界で初めて体脂肪計を開発したタニタですが、やり手の社長・谷田卯之助(草刈正雄)が病気になり、息子で二代目副社長の幸之助(浜野謙太)は気弱でなんとも頼りありません。さらに健康機器メーカーであるのに、幸之助をはじめ社員は肥満気味な者が多く、社の業績も良好とはいえません。そんなタニタの窮地を挽回するため、幸之助は肥満の社員が参加するPRプロジェクトを企画。彼はピンチをチャンスに変えられるのでしょうか?

「俺物語!!」(★★★☆☆)

15歳の高校1年生・剛田猛男(鈴木亮平)は、全く高校生には見えない顔面と巨体の持ち主。いかつい風貌から女子にはモテませんが、情に厚くいつ何時も人助けをする包容力により、男子からは全幅の信頼を得ていました。そんなある朝、猛男と友人の砂川(坂口健太郎)が、街でしつこくナンパされている美少女高校生・大和凛子(永野芽郁)を救い、猛男は大和に一目ぼれしてしまいます。一方の大和も、猛男の「優しさ」と「男らしさ」に惹かれ、まさに「美女と野獣」のカップルが誕生します。

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

精神科医

千田 要一

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

千田要一メールマガジン(毎週火曜日、メンタルに役立つ映画情報を配信!)

http://hs-cl.com/pc/melmaga/hsc/?width=550&height=500&inlineId=myOnPageContent&keepThis=true&TB_iframe=true

【関連書籍】

幸福の科学出版 『幸福感の強い人弱い人 最新ポジティブ心理学の信念の科学』 千田要一著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=780

HSU出版会 『人間幸福学のすすめ』 第4章 人間幸福学から導かれる心理学 千田要一共著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=2152

【関連記事】

「精神科医がおすすめする 心を浮かせる名作映画」過去記事一覧

過去記事一覧はこちら