トランプ大統領は4月、エネルギーのインフラ・プロジェクトの建設承認を迅速化させる大統領令に署名し、支援者に演説を行った。写真:ロイター/アフロ

2019年6月号記事

編集長コラム Monthly  Column

資本主義の精神で「優しい政府」を実現する

安倍政権はすっかり「左傾化」が板についた。

2012年末の政権発足当初は「3本の矢」の経済政策を打ち出し、減税や規制緩和を推し進めようとしていたが、年々「左」にシフトし、今や野党の票を取り込むようになった。

その最たるものが教育の無償化。保育と大学の費用を税金でまかなうために消費税を増税し、約1兆5千億円を充てる。

これで「国営」の保育園、「国営」の大学が増え、かつてのソ連や今の中国のような「社会主義の政府」になる。 保育士や大学教授はみな公務員や準公務員。すでに文部科学省は大学などへの管理を強めており、大学が自助努力して学生の満足度を上げようとしても、その「自由度」は小さくなるばかり。教育のレベルが下がり、政府の借金は増え続ける。

長期政権維持のために、未来のない政策が採用されている。

米で500万人の雇用創出

トランプ氏は規制緩和を進め、石油パイプラインの建設などで経済浮揚を図る。

かたや、安倍晋三首相の盟友的存在のトランプ米大統領は、まったく逆の政策を進める。「経営者」としてマネジメントの考え方を採り入れ、新しく仕事を創り出すことに徹底的にこだわる。

2019年からはインフラ投資に力を入れており、10年間で1.5兆ドル(約160兆円)を投資する方針だ。PPP(官民連携)の手法を活用し、民間資金を呼び込もうとしている。

2017年末からの大減税で、グローバル企業が海外に留めた利益を米国内に戻す場合に大幅に減税され、資金の還流が始まった。トランプ氏は、その資金が新産業に発展しそうな電気自動車や自動運転などの開発拠点や工場への投資に向かうことをねらう。

1つの導入に対し22項目を撤廃してきた規制緩和も成果が出ており、天然ガスや石炭などエネルギー業界が息を吹き返した。

これら大減税、規制緩和によって、政権発足2年余りで約500万人の雇用を生み出した。トランプ氏は就任時、「神が創った中で最大の雇用を創出する者となる」と宣言していたが、その公約実現に向かって着実に前進している。

失業率はこの49年間で最低を記録。低所得者の収入もアップしており、「ジョブ・クリエーション」が最大の福祉であることを示した。幸福の科学の大川隆法総裁は、著書『 HS政経塾 闘魂の挑戦 』でこう指摘した。

結局、資本主義の精神とは何かというと、実は、『仕事をつくっていく能力』なんですよ

トランプ氏は資本主義の精神の権化のような仕事をしており、安倍首相とは正反対だ。

PPPで「稼ぐ」政府に

国民が次々と「公務員」になり、どこかで破たんするよりは、新しく民間の仕事が生み出されたほうがいい。 やはりトランプ的な「資本主義的な政府」を日本でも模索すべきだろう。

大前提として政府首脳部の「経営者」としてマネジメントの考え方が要る。経営学者ドラッカーが指摘したように、「顧客が満足するサービスを提供し、その結果、利益を確保し、組織が存続できる」。要は政府も「稼ぐ」ことが求められている。

日本は財政難で、インフラ投資の資金をひねり出すことが難しくなっている。アメリカはその問題に80年代から向き合い、PPPの手法を体得してきた。 PPPは役所と民間企業がタッグを組んで民間の「稼ぎ方」を採り入れ、その収益の一部でインフラを整備する方法だ。

例えば遊休公有地を安く貸し、民間のディベロッパーがマンション群を開発。その収益の一部で学校や庁舎を建てることがアメリカでは一般化している。

日本では、岩手県紫波町など一部自治体で実践されているが、ほとんど普及していない。

PPPのエッセンスは、「人材も資源もお金も乏しいが、今あるものを組み合わせて強みをつくり出す」という二宮尊徳精神そのもの。日本は政府・自治体を挙げてPPPに関する知恵を学ぶ時期を迎えている。

大減税で未来産業投資

トランプ氏が減税などで企業の持つ資金を誘導し、新産業への投資を促すのは、アメリカの製造業を完全復活させ、中間層の雇用を増やすためだ。米国内の工場が海外に移転しようものなら、「高い税金を課す!」とさまざまな脅しをかける。

今はGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)全盛の時代だが、これからの基幹産業はロボット、航空・宇宙技術などを組み合わせた新たな交通手段や新エネルギーであることが見えてきている。経済学者シュンペーターの言うイノベーションの時代が目の前に来ている。

シュンペーターはイノベーションには大きな投資が必要で、その「信用を供与する主体が銀行家だ」と指摘。つまり、お金の出し手も大きなリスクを負う必要があるということだ。

トランプ氏はそのリスクを一部負うかたちで、減税し、海外から投資資金を還流させている。日本もこれに倣うべきだし、企業の研究開発投資への減税も大規模に行うべきだろう。

また、 未来産業の卵に投資する「国家未来事業債」を発行し、相続税を課さないようにすれば、タンス預金約50兆円をはじめ個人金融資産1800兆円が動き出す 。現在の日本では、国民自身が「銀行家」の役割を果たす。

大富豪として知られるビル・ゲイツ氏(左端)、チャーリー・マンガー氏(中央左)、ウォーレン・バフェット氏は大学などの非営利組織へ多額の寄付を行っている。写真:AP/アフロ。

民間委託で満足度を上げる

「社会主義的な政府」だと、補助金をバラまくしかないが、「資本主義的な政府」は民間の力、市場の力を信じて引き出そうとする。そのために減税や規制緩和・撤廃を重視するのが、経済学者ハイエクの考え方だ。これを突き詰めれば、政府の広い意味での「民営化」へ向かう。

アメリカの自治体レベルでは、それは実行されている。ジョージア州サンディスプリングス市(人口約9万人)は警察と消防以外の窓口業務や公共事業などを民間に委託した。市職員は10人弱で、民間企業約140人が業務を請け負う(多くの場合、元市職員を採用)。

同規模の自治体に比べて歳出は半減。と言っても、「道路の穴は2時間以内に仮修復」など細かい契約を結び、サービスの満足度を上げる努力を続けている。

民間に運営を任せる手法(コンセッション方式)は、日本でも空港や水道、道路などで始まっているが、基本的にどんな事業でも導入を進めていくべきだろう。

PPP、減税で福祉を充実する

「資本主義的な政府」と言うと、冷たく感じるかもしれないが、むしろ福祉や教育を充実させることができる。

アメリカでは先のPPPの方法で街の再開発をする際、低所得者住宅の新設や学校の改修を組み込むのが一般的だ。それを応用し、病院や介護施設、保育園を建設することもできる。

減税を通じて福祉や教育の充実を図ることは、アメリカでは常識だ。寄付をすれば所得の半分まで控除が認められ、個人による寄付総額は30兆円以上にのぼる。日本はその40分の1の約7千億円。控除が認められる対象団体がアメリカでは宗教や科学、芸術関連など幅広く認められ、約130万もある。これに対し日本では自治体や学校、福祉団体など約2万団体にすぎないことも影響している。

自治体への寄付は「ふるさと納税」として所得税などが安くなる。自治体だけの「特権」を民間にも解放すれば、寄付金の大きな流れをつくり出せる。

寄付によって福祉や教育の向上を図るのは、19世紀アメリカの大富豪カーネギー以来の伝統だ。日本でも騎士道精神による繁栄を減税によって実現したい。

年金、医療も民間委託を

年間120兆円に迫る社会保障の分野でも、先のコンセッション方式は可能だ。年金も医療も介護も社会保険料を集めながら、約27兆円も税金で「赤字補てん」されている。民間に委託し、コストを下げながら満足度を高めたい。

公立の小中高や大学についても、授業や運営など民間に委託できる仕事は多い。どんな成果を求めるかは契約で詳細に決めておけば十分担保できる。

資本主義の精神と騎士道精神で福祉や教育は支えられる。それでこそ弱者に「優しい政府」が実現できる。 いずれ行き詰まる冷たい「社会主義的な政府」は終わりにしたい。

(綾織次郎)