「尊徳式」地方に繁栄を呼ぶ方法──「稼ぐ」自治体の時代がやって来た - 編集長コラム

「尊徳式」地方に繁栄を呼ぶ方法──「稼ぐ」自治体の時代がやって来た - 編集長コラム

写真:くれじっと

 

2019年4月号記事

 

編集長コラム Monthly  Column

 

「尊徳式」地方に繁栄を呼ぶ方法

──「稼ぐ」自治体の時代がやって来た

 

 

 本号の特集「人口減少ニッポン 『稼ぐまち』が人口を増やす」を受けて、改めて「本当の地方創生」について考えてみたい。

 地方の人口減少や衰退については、2014年に元岩手県知事らが書いた『地方消滅』が「2040年までに896の自治体が消滅する」と危機を訴え、反響を呼んだ。また、人口減少する日本で今後何が起きるかをまとめた『未来の年表』(河合雅司著)は「縮小する日本における処方箋」を提案し、話題となった。

 特集で成功例を挙げて示したが、地方の人口減少にストップをかけ、再増加へと転じるには「ジョブ・クリエーション」しか方法はない。その地域でたくさんの人が食べていけるだけの仕事が創られ、所得が増え続けることが必要条件だ。

 安倍政権も似たような問題意識を持っているが、それを基本的に「補助金行政」で実現しようとしており、うまく機能していない。

 ジョブ・クリエーションのためには、地域の人たちが勤勉に働き、売れる商品・サービスをつくり出すしかない。それは江戸末期の農政家・二宮尊徳が、疲弊する600以上の農村を復興した方法と変わらない。

 

 

(1)自立心を育てる「心田開発」

 二宮尊徳による地方を復興・繁栄させる方法とは、どういうものだったのか。3つの柱で整理してみたい。

 第一は「心田開発」。江戸末期は天変地異や天候不順が頻発し、不作や飢饉に苦しむ農村が続出した。農民たちは「自然が相手ではどうしようもない」と言い訳やあきらめの心が出てきて、貧困から抜け出すのが難しくなる。

 尊徳は復興を任された地域で、マイナスからでも立ち上がり、情熱を共有する仲間を一人二人とつくり出していった。

 そのために「芋こじ」と呼ばれる村の集会を重視した。そこでは誰をリーダーに選ぶか、どう復興を進めるか、どう資金を使うか、誰を働きの目覚ましい人として表彰するかなどを話し合った。意見をぶつけ合って「芋がこすり合う」ようになる中で、一人ひとりに当事者意識や自立心を植えつけるのがねらいだった。

「荒れ地には荒れ地の徳がある」と尊徳は農民たちに説いていた。どんな人にも神仏から与えられた長所や取り柄があり、それを発見・自覚し、神仏にお返しするという独自の「報徳思想」を教えた。今の自分たちに与えられているものへの感謝を復興・繁栄への出発点とした。

 

 

(2)「勤勉」と「倹約」を奨励

 第二に、「勤勉」と「倹約」を奨励した。自分たちに与えられた条件・環境の中で、「顧客」が買い求めたくなる商品をつくり出した。

 尊徳自身が少年期にやったように、薪や梅の実を集めたり、新しく野菜や菜種を育てたりして領内外で販売。収益源の多角化を図った。コメは大坂・堂島の米相場を見ながら、高値のときに売りさばいた。つまり、「稼ぐ」ために手を尽くした。

 一方、薪など燃料消費を節約すれば自分の収入になるルールを決め、節約のためのインセンティブ(誘因)を働かせた。

 尊徳は、村や町自体を今の「商社」のようなものに見立て、利益を生み出し続けることで、すべての家庭の黒字化を目指したのだった。

 尊徳の領内"経営"のポイントは、飢饉など緊急時以外は「補助金」を断ったことにある。

「お金をいただくと村民は奪い合うだけで、心がすさみます。これから後、殿様は一両もくださりませんように」

 尊徳は小田原藩主の分家の下野国桜町領の復興を請け負う際、補助金を辞退した。

 藩主からの資金は領民に低利で融資し、彼らの田畑の復興に充てさせ、必ず返済させた。融資制度を、領民が「農業経営者」としての自覚を持つための呼び水にした。

 

 

(3)社会や未来への「推譲」

 第三は、「推譲」の実践を促した。

「子孫に譲る。親戚友人に譲る。郷里に譲る。国家に譲る。それぞれの分限によって努めて行うべきだ」

 尊徳は「譲る」ことの意味を、自身の富を他の人や社会、国のために使うことだと説いた。また、領内の田畑や用水路などのインフラを力を合わせて開墾・建設することも含むものだった。尊徳が指揮して造ったインフラは明治時代以降も使われ続けたので、未来社会への「推譲」にもなった。

 尊徳は「徳は無尽蔵にあり」と語っていた。人間一人ひとりや土地、自然環境などの「徳=長所」を「心田開発」によって発見し、「勤勉」「倹約」「推譲」によって生かせば、無限の富を生み出せると考え、実践した。

 

 

現代でも応用できる

付加価値の高い商品を開発・販売するなどして、若い層を中心に人口を増やしている島根・隠岐諸島の海士町。写真提供:ピクスタ

 

 尊徳方式は現代にそのまま応用できる。実際、特集で取り上げた成功例は、どれも尊徳方式を実践していた。

 島根・隠岐諸島の海士町は、鮮度を落とさず魚介類を全国販売する事業などに取り組んだが、議会は当初「絶対に黒字にならない」と大反対。それでも当時の町長と職員たちが自分たちの給料をカットして資金をねん出して事業を立ち上げたのは、一人ひとりの「心田開発」の結果だろう。

 離島の海士町は交通の便が悪いなど不利な条件ばかりだったが、岩牡蠣のブランド化や高級牛づくりにチャレンジし、大都市の顧客を開拓。同県旧吉田町(雲南市)も、卵かけご飯専用しょうゆなどの商品開発によって「稼ぐ」自治体となった。そして、旧吉田町は人口減少に歯止めをかけ、海士町は若い層が増えた。

 特集で取り上げたPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ、公民連携)はアメリカで無数に成功例がある。政府・自治体の業務のマネジメントや、遊休資産の土地や建物の再開発について民間企業に委託する枠組みだ。

 民間企業はその事業を通じて利益を上げる一方、政府や自治体は業務の効率化・低コスト化を図れたり賃料や税金を納めてもらえたりするので、ウィン・ウィンの関係ができる。尊徳は、領内農村のマネジメントの委託を受けて再開発し、年貢を確保して藩に納めたので、「PPPの先駆者」と言える。

 フロリダ州マイアミ市のケースでは、政府からの補助金は一切期待できなかった。その中で遊休地を有利な条件で貸すことで、再開発の提案を民間から募り、公営住宅や図書館、美術館ができ、映画館やホテルなども進出。何千人もの仕事が創られ、この地域で人口が増え続けている。

 PPPには「勤勉」「倹約」の現代的な知恵が詰まっている。

 

PPPで町を再開発し、人口を増やすことに成功している米フロリダ州デルレイ・ビーチ市。写真:eStock Photo/アフロ

 

 

足りない未来への「推譲」

 現代で江戸末期の田畑や用水路にあたるのは、やはり交通・流通のインフラだろう。新幹線やリニア、高速道路などによって、東京や大阪、名古屋など大都市圏との間を短時間で行き来できる範囲が広がるほど、人とモノとお金が循環し、ビジネスや観光は活発になる。

 1970年代に「日本列島改造論」で全国に新幹線網と高速道路網を巡らせることを提唱した田中角栄首相は、「人間の1日の行動半径の拡大に比例して、国民総生産と国民所得は増大する」と語っていた。

 それは近年では、九州や北陸の新幹線の開通によって地域の仕事が増え、所得水準も上がったことが実証している。

「改造論」はその提案から半世紀が経とうとしているというのに、その3割しか実現できていない。これは、未来社会への「推譲」をこれまで怠ってきたことを示している。

 

 

「努力の障害を取り除く」

「心田開発」や「勤勉」「倹約」、「推譲」の精神で自治体や地域の経営が行われることによって、仕事を創り、所得を増やすことができる。

 シャッター街化した地方の商店街の問題も対処法は変わらない。言い訳を廃し、与えられた環境下で売れるものをつくり出し、人通りを増やすような"インフラ"を築くしかない。

「ジョブ・クリエーション」が人口のV字回復を可能にする。高齢者にとっては、働き続けられる仕事の存在自体が最大の福祉となる。

 大川隆法・幸福の科学総裁は、著書『HS政経塾・闘魂の挑戦』でこう解説した。

結局、資本主義の精神とは何かというと、実は、『仕事をつくっていく能力』なんですよ。ですから、『仕事をつくって、富を生み出し、個人が豊かになる。そして、個人の豊かさの一部が、国家や社会に対する貢献になり、あるいは、足りざるところ、遅れているところに対する穴埋めとなって、いわゆる弱者を助けたり引き上げたりするために使われていく』というスタイルでなければいけない

 尊徳の人生は、資本主義の精神をそのまま体現したものだったと言える。

 尊徳は、「政治は、人々が正当な努力をする際の障害を取り除くためにある」と語っていた。

 

 

「尊徳方式」を広げるには

 尊徳方式の自治体経営を全国で実現するために取り除かないといけないことは、少なくとも以下の7点だろう。

 (1)政府から自治体へ「地方創生」の名目で注ぎ込まれる補助金を極力絞り込み、民間からの投資や低利融資などに切り替える。すでに政府には市町村にバラまける補助金が乏しい。市町村・都道府県の首長は、住民の声を聞きつつ、民間と連携して「稼ぐ」ことのできる能力が一つの条件となる。

 (2)自治体が「商社」的な機能を持ったり、再開発事業を展開したりして「稼ぐ」ことを積極的に認める制度に改める。現在は自治体が利益を上げると、地方交付税(政府が自治体に代わって集める地方税の性格)を減額されるなど不利に働く。

 (3)自治体に複式簿記方式の会計制度を正式に導入し、公有財産が活用できているか、「稼ぐ」ことができているかを点検できるようにする。

 (4)「稼ぐ」ことのできた自治体が独自に住民税や法人住民税を減税できるようにする。それによって移住や企業移転を呼び込む。特集でラッファー博士が語っていた米テキサス州の例はその典型。最終的な理想は「無税自治体」で、各自治体はそれを目指して競争する。

 (5)地域内の民間の仕事がどれだけ創出されたか、かつ平均所得がどれだけ上がったかに連動して自治体の首長と職員の給料が決まるようにする。公務員と民間企業の給与格差が1.5倍ある不公平を改める。また、選挙では仕事の創出、所得上昇を最重要のモノサシとするよう住民を啓蒙する。

 (6)日本には自治体が財政破たんする仕組みが存在しない。破たん制度をつくり、自治体の首長や幹部の責任を明確にする。

 (7)法学部など行政官を輩出する学部での教育体系の柱にマネジメントを入れ、経営能力の基礎を学べるようにする。

 政府や自治体の運営の中心に「稼ぐ」という考え方を導入する時代が到来している。

 補助金漬けではない「本当の地方創生」の方法が全国に広がれば、日本のGDP(国内総生産)はこの30年間の停滞を脱することができる。

 再び日本が経済発展するプロセスにおいて、「親日国から移民を受け入れ、日本人になってもらう」という本誌や幸福実現党が提案する政策が重要な役割を果たすことになる。尊徳も農村復興が軌道に乗る中で他藩からの移民を受け入れ、さらなる復興・繁栄へとつなげた。

 尊徳方式を全国に広げ、地方に繁栄を呼び込みたい。

(綾織次郎)

 

周辺の人口が75人まで減少した高松市の丸亀商店街は、商店街の店主たちが自ら財源を生み出し、大胆な再開発を行ったことで復活を遂げた(本誌2018年5月号)。

 

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