仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

その映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作だ」と評価されていても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

今回は、離婚や再婚を乗り越えて幸せな家庭を築きたいという人に向けたものです。

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(1)「グッドナイト・ムーン」(★★★☆☆)

まずご紹介する映画は、「グッドナイト・ムーン」(1998年、アメリカ映画、125分)です。離婚した夫婦とその子供たち、そして、夫の再婚した新しい妻が巻き起こす「ステップファミリー(子連れ再婚)」問題を描いたハートフル映画です。

ニューヨークの売れっ子ファッション・フォトグラファーのイザベル(ジュリア・ロバーツ)は、離婚したばかりの弁護士のルーク(エド・ハリス)と恋に落ちます。

二人は同居生活を始めますが、彼には前妻のジャッキー(スーザン・サランドン)との間に二人の子供がいました。12歳の娘・アンナ(ジェナ・マローン)と7歳の息子・ベン(リーアム・エイケン)はジャッキーを恋しく思っており、継母であるイザベルの言うことをなかなか聞いてくれません。仕事と子育てを両立させようと奮闘するも、失敗を繰り返すイザベルに対し、ジャッキーは苛立ちを募らせます。

そんな中、ジャッキーを病魔が襲うのです。病気の発覚をきっかけに、それまで反発し合っていたイザベルとジャッキーは歩み寄ります。

ジャッキーは、イザベルを拒絶する娘のアンナに向けて、イザベルのいいところをみてあげるようにアドバイス。子供たちはイザベルと打ち解け始めます。しかし、子供たちの信頼を得ていくイザベルの姿を見て、ジャッキーは嫉妬の思いを隠せません。果たして、彼らは家族として団結できるのでしょうか?

社会が高度化すると、「人、物、金」の流れが速くなります。

そうした動きにともない、日本でも、キャリアアップするために何度も転職する人や、「バツイチ再婚」、「バツニ再婚」などと、離婚・再婚を繰り返す人が増えてきました。厚生労働省の調査では、4人に1人が「再婚カップル」ということです(2015年調査「特殊報告」より)。

再婚カップルが増える中、夫婦の片方、あるいは両方が子連れで結婚・再婚してできた家庭、いわゆる「ステップファミリー(継家族、再婚家族)」が増加しています。「どうすれば幸せなステップファミリーを築けるのか」ということは、大きな課題です。

血縁を過剰に意識しすぎると、何か家族の中で問題が起こった時に、「やっぱり血がつながっていないからだ」と考え、問題解決を諦めてしまう場合が多いようです。また、「離婚」を負い目に感じて「親としての自信」がなくなる人も。自信を失った親が、自信のなさを取り繕うために継子を過剰にコントロールしようとすると、当然ながら反発を招きます。

ステップファミリーが「安定期」に達するまでに平均8年かかると言われています。一方、4年ほどで安定する家族もあります。初期の段階で、家族が分かりあえるようどれだけエネルギーを費やしたかがポイントのようです。

幸せなステップファミリーを築くためには、「生みの親より、育ての親」という諺(ことわざ)を信じることが大切でしょう。

「血縁があるかないか」という事実より、「子育てする行為」そのものが大切です。血縁がある子供であっても、子供の反抗期で「親子の葛藤」は起きますし、子供のDV(ドメスティック・バイオレンス)で苦しんでいる家庭はたくさんあります。

血縁が無くても、「継子の個性を尊重し、一人の人間として見守って」あげられれば、血縁の親以上の子育てができるはずです。

(2)「6才のボクが、大人になるまで。」(★★★☆☆)

次にご紹介する映画は、「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年、アメリカ映画、165分)。6歳の少年の成長を、家族の変遷も絡めて12年間撮り続けたヒューマンドラマです。ステップファミリーの問題がメインテーマになっています。

主人公である少年・メイソン(エラー・コルトレーン)は、母親のオリヴィア(パトリシア・アークエット)と姉のサマンサ(ローレライ・リンクレイター)と一緒に、テキサスの田舎町で暮らしていました。しかし、メイソンが6歳の時、家族はオリヴィアの故郷であるヒューストンに転居することに。

メイソンはそこで、実父(イーサン・ホーク)との再会や母の再婚、アルコール中毒の継父からの暴力など、揺れ動く環境の変化の中で、多感な青春時代を過ごします。

やがて、オリヴィアは大学で教鞭をとるようになり、母の新しい恋人が家族に加わることに。一方で、ミュージシャンの夢をあきらめた実父は保険会社に就職し、再婚して子供を一人もうける――。

家族がそれぞれの人生を歩む姿に学びながら、メイソンはアート写真家という夢に向かって母親から巣立っていくのでした。

本作品から、どのような家庭に育ったとしても、メイソンのようにすべての経験を学びの機会と捉えることで、人間として立派に成長できるということが分かります。

私が院長をしているハッピースマイルクリニックでも、ステップファミリーの相談に乗っています。アメリカほどではありませんが、日本でも、母と児童だけの家庭「シングルマザー(母子家庭)」や父と児童だけの家庭「シングルファーザー(父子家庭)」が増加しています。

一人親家庭では、自分ひとりで家庭を切り盛りしないといけないという「精神的負担」に加え、「経済的ストレス」ものしかかってきます。厚生労働省の調査では、一般的な家庭で、平均年間収入が約500万円ですが、父子家庭で約400万円、母子家庭で約200万円と算出されており、母子家庭の経済的苦境が際立っています。

こうした精神的・経済的なストレスを大きくしてしまう原因として、親の「完璧主義」が挙げられます。親が、仕事、家事、育児と、なんでも「独り」でやってしまおうと頑張って、燃え尽きてしまうことがあるのです。

また、「片親だから育児がダメだ」といわれないよう、過剰に育児に力が入ってしまい、子供に「過干渉」になる場合も。そうすると、子供はそれに反発し、親子の葛藤が激しくなるわけです。

「全部一人でやらなければ……」

一人で家庭を切り盛りしていると、ついそう思ってしまいがちでしょう。しかし、周りを見渡してみると、自分の両親や親族、知人や友人など、相談できそうな人はたくさんいるはずです。自分の身近にそうした人がいなければ、メンタルクリニックやNPO団体、児童相談所など、相談に乗ってくれる社会福祉団体もあります。

一人で抱え込んでしまうのではなく、周囲の協力を得ながら子供を育てていくことが大切です。

(3)「人生の特等席」(★★★★☆)

最後にご紹介する映画は、「人生の特等席」(2012年アメリカ映画、111分)。クリント・イーストウッドが主演を務める、年老いたメジャーリーグのスカウトマンと、その一人娘との絆を描くヒューマン映画です。

主人公のガス(クリント・イーストウッド)は、家庭も顧みず、メジャーリーグ・スカウトマン一筋で生きてきた名スカウトマンでした。しかし、寄る年波には敵わず、仕事に限界を感じるように。そこでついに、最後のスカウトの旅に出ることを決意します。

それに手を貸したのが、父との間にわだかまりを感じ続けてきたひとり娘のミッキー(エイミー・アダムス)でした。妻を亡くし、男手ひとつで育てようとしたもののうまくいかず、心に傷を抱えるガス。かたや、「捨てられた」と父親を恨んでいる娘。両者の旅は果たしてうまく行くのでしょうか? 最後にそれぞれが見つけた人生の特等席とは――。後は観てのお楽しみです!

本作を観ると、コミュニケーションの大切さを痛感します。たとえ親子であっても、お互い誤解したままだと、骨肉の争いに発展しかねません。しかし、冷静に相手の言い分をじっくり聴くことで、「理解」し合うことができ、理解することで、自然に相手を「許す」ことができるようになるのです。

この「許し」という行為は、ポジティブ心理学の中でも、最も重視する陽性感情の一つでもあります。

他には、以下のような映画がオススメです。

「おかんの嫁入り」(★★★★☆)

母親の突然の再婚宣言によって安定していた母子関係が変化していくさまを描いたヒューマン・ハートフルドラマ。娘の月子(宮崎あおい)と母親の陽子(大竹しのぶ)は、ずっと母子家庭で、仲良く暮らしてきました。そんなある日、陽子が若い金髪の男・研二(桐谷健太)を連れてきて、結婚することにしたと宣言。陽子の不可解な行動を理解できない月子ですが、あるきっかけで、陽子が末期のがんに侵されていることを知ります。陽子は、自分が不治の病であることを、月子に知らせていなかったのです……。

「リアル・スティール」(★★★☆☆)

現在から約10年後という近未来のアメリカを舞台に、ロボット・ボクシングを通して心を通わせていく父と息子の愛情物語です。2020年、チャーリー・ケントン(ヒュー・ジャックマン)はかつて将来を嘱望された期待のボクサーでしたが、ロボット同士の格闘技が人気を集める世界で、ボクサーとしての夢が果たせず、人生の敗北者として生きていました。しかし、前妻と暮らしていた実息子のマックスと暮らし始めたことをきっかけに、もう一度チャレンジを果たします。

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

精神科医

千田 要一

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

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【関連書籍】

幸福の科学出版 『幸福感の強い人弱い人 最新ポジティブ心理学の信念の科学』 千田要一著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=780

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