仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

その映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作だ」と評価されていても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

今回は、吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』が復刻ブームとなっていることにちなみ、「人生の意味が分からなくなり、漠然とした不安にかられる」という人に、オススメの映画を処方いたします。

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「天国に行けないパパ」(★★★☆☆)

まずご紹介するのは、「天国に行けないパパ」(1990年、アメリカ映画、97分)というコメディー映画です。「余命2週間」と告げられた老刑事バート・シンプソン(ダブニー・コールマン)が、息子に保険金を残すため、何とか殉職しようと危険な任務に挑むというもの。

際立った実績を上げられないまま、あと1週間で定年を迎えようとしているバートの夢は、1人息子のダギーをハーバード大学に行かせることぐらいでした。

そんな中、突然不治の病の診断が下り、あと2週間の命だと宣告されます。バートは、愛する息子が大学に行けるよう、殉職して保険金を残すため、犯罪多発地帯の勤務を志願。防弾チョッキもつけずに現場に乗り込む、命知らずのスーパー・コップに変身するのです。

相棒のアーニー(マット・フリューワー)はバートのあまりの急変に仰天しますが、彼は次々と悪を粉砕して街のヒーローになっていくのです。 死を覚悟したバートは、別れた妻のキャロリン(テリー・ガー)にこれまでの感謝を伝えます。その結果、相互の誤解が解け、真実の愛が取り戻されますが、もはや時間は残されていません。

彼は、必ず殉職すべく、極悪武器商人・カール・スターク(ザンダー・バークレイ)のアジトに単身向います。一方で、相棒のアーニーは病院で余命宣告が誤診であることを知り、あわててバートにその事実を知らせようと後を追います。

結局、バートとアーニーは協力してスタークを逮捕し、表彰され、死の心配のなくなったバートはキャロリンとダギーと共に、幸福な人生へと新生するのでした。

ポジティブ心理学では、「死を見つめれば生が生きる」と考えます。自分が死ぬ瞬間を想像して、「どういう人生だったら悔いが残らないか」「どうすれば他人に惜しまれるような生き方ができるか」と考えると、そこから逆算して、「今どう生きるべきか」が見えてきます。

これを証明するような研究もあります。

無差別に通行人を呼び止め、慈善活動について答えてもらうという実験がありました。回答者の半数は葬儀社の前で、あとの半数は普通のビルの前でアンケートを実施しました。その結果、葬儀社の前で自分自身の死を意識しながら回答した人は、死とは関連のない普通のビルの前で答えた人より、明らかに慈悲深い回答をしたというのです。

では、私たちが自らの死を意識するためにはどうすればいいのでしょうか。

例えば筆者は「棺桶瞑想」という、自らが死ぬ瞬間を疑似体験するという心理療法を提唱しています。電話、メール、家族の話し声などの刺激が入らない環境を整え、以下の手順で行います。

(1)腹式呼吸

力が入らない楽な姿勢をとり、腹式呼吸を繰り返して、瞑想状態に入っていく。

(2)死ぬ瞬間の瞑想

自分の人生における最後の瞬間を思い描いて、自分がどのような生き方だったら良かったのかをじっくりと考える。

(3)家族、知人、友人からの弔辞をイメージ

最も親しい人たちに自分はどのように人間として記憶されたいか、その人たちは自分のどんな業績について語ってくれるだろうかを想像してみる。

(4)希望と現実のギャップを分析

自分にとって「悔いが残らない人生」と、自分の現在の生き方が一致しているか、それとも足りない部分があるかを分析する。

(5)希望実現の具体的計画

「悔いが残らない人生」を生きるために、具体的にどのように努力していくか計画を立てる。ポイントは、夢や希望というものは、自分が具体的に行動しない限り実現しないものだと肝に銘じておくこと。

「最高の人生の見つけ方」(★★★★☆)

次にオススメしたいのが、「最高の人生の見つけ方」(2007年、アメリカ映画、97分)です。

自動車整備工のカーター・チェンバース(モーガン・フリーマン)は、約50年間にわたって家族のためにひたすら働いてきた、実直な人間。学生時代に哲学の教授から勧められ、死ぬ前にやりたいことをすべて書き出す「棺桶リスト(The Bucket List)」をつくったものの、結局一つも実現できないままです。

一方、会社を大きくすることに人生のすべてをつぎ込んできた大金持ちの実業家エドワード・コール(ジャック・ニコルソン)は、自らの夢は実現したものの、孤独に生きてきました。

そんな正反対の二人ですが、ある日、ガンで余命6ヶ月と宣告され、病院のベッドで隣り合わせることに。人生の最後を共に過ごす仲間となった二人は、「棺桶リスト」を書き出し、一つひとつ夢を実現させていくのです。

「荘厳な景色を見る」、「赤の他人に親切にする」、「涙が出るほど笑う」、「スカイダイビングをする」、「マスタングを乗り回す」、「ライオン狩りをする」、「世界一の美女にキスをする」――。

先ほど紹介した、「死を見つめると生が輝く」という考えをこの映画からも学べます。

日常の中で「死」を意識することは少ないですが、人間の寿命は永遠ではありません。平均寿命は、日数にして約3万日と算出され、実は、1日1日と「死」が迫っています。自分が棺桶に入る時に悔いを残さないためには何をすべきか。そうしたことを真剣に考えることで、今の「生」が輝いてくることでしょう。

「素晴らしき哉、人生!」(★★★★★)

「素晴らしき哉、人生!」(1946年、アメリカ映画、130分)も、オススメしたい映画です。全てに絶望して自殺を図る男に、希望の光が差し込むハートフルストーリーです。

ジョージ・ベイリイ(ジェームズ・スチュアート)には子供のころから、「生まれ故郷の小さなベタフォードの町を飛び出し、世界一周旅行をしたい」という夢がありました。ところが、父の突然の死により、父が経営していた住宅金融会社を継ぐことになります。

彼は、町の貧しい人々に低利で住宅を提供し、住民から尊敬を集めますが、町のボスである銀行家のポッター(ライオネル・バリモア)からは目の仇にされ、嫌がらせを受けることに。

やがてジョージは幼馴染みのメリイ(ドナ・リード)と結婚し、4人の子供にも恵まれ、幸福な結婚生活に入ります。世界を襲った経済恐慌もなんとか乗り越えます。しかしここで悲劇が起こります。会社の預かり金8000ドルを紛失してしまうのです。

懸命な資金繰りの努力も甲斐なく、絶望した彼は、身投げしようと橋の袂にたどり着きます。ジョージがまさに自殺しようとしたその刹那、クラレンスと名乗る老年の天使が現れ、ジョージが生まれて来なかった世界に彼を連れて行きます。

そこは人情も道徳もない幻滅の世界で、ジョージはたまらなくなって元の世界へ戻してくれと絶叫。無価値だと思っていた自分が、いかに存在価値があったのかを悟ったのでした。

現実世界に戻ったジョージに、さらに、起死回生となる「奇跡」が臨みます……。

乗り越えられないような逆境にぶち当たると、自己卑下して死にたくなってしまうこともあるでしょう。しかし、本当に救いようのない状況なのかを自問する必要があります。よくよく目を凝らせば、本作のジョージのように、陰ながら評価し、応援してくれている人たちがいるはずです。もし、自分を評価してくれる人が皆無であったとしても、自分で自分を褒めたり、ねぎらったりして、自らを奮い立たせることです。

「天国はほんとうにある」(★★★★☆)

最後にオススメする映画は、「天国はほんとうにある」(2014年、アメリカ映画、99分)です。これは、感染症で生死の境をさまよい、天国を見てきたと語る少年の実話をつづった臨死体験で、世界的ベストセラーとなった『天国はほんとうにある』を元にしています。

アメリカ・ネブラスカ州インペリアル市で牧師を務めるトッド(グレッグ・キニア)には、3人の子供がいました。ある日、3歳の長男コルトン(コナール・コラム)が高熱に見舞われ容態が急変します。

トッドが地元の急患センターに連れて行くと、穿孔虫垂炎(せんこうちゅうすいえん)と診断され、コルトンは生死をさまよいます。トッドは絶望のあまり、神に私の息子を奪う気かと呪いますが、二度の手術の後、奇跡的にコルトンは一命を取り留めます。

やがて回復したコルトンは、天国を旅してきたと語り始めるのです。コルトンは、天国の様子や、彼が知らないはずの家族や地元の状況について克明に話します。牧師であるトッドでさえ、始めは、何かの偶然と考えていましたが、コルトンの証言は、あまりにも鮮明で、正確。コルトンが知らないはずのトッドの叔父や流産した娘と天国で面会してきたことを話すにいたって、トッドは、息子の「臨死体験」と真剣に向き合うようになります。

臨死体験は、世界中で報告されており、科学的にも研究が進んでいます。「人は死んでも無になるわけではない」という霊的人生観を持つことで、私たちの「生きる意味」が見えてくることでしょう。

他には、以下のような映画がオススメです。

「ヒアアフター」(HEREAFTER)(★★★☆☆)

ヒロイン(ジャーナリストのマリー)は、東南アジアで津波に飲み込まれ、光のトンネルをくぐる臨死体験をします。その後、彼女は人生の転機を迎え、臨死体験を扱った本を出版することに。霊能力者、ジョージ(マット・デイモン)との出会いも印象的です。

「ツナグ」(★★★★☆)

死んだ人に1度だけ会わせてくれるという霊媒師「ツナグ」を通して、死者と生者の特別な絆を描き出すスピリチュアル映画です。ツナグへの依頼人はさまざまな事情を抱えた人ばかりでした。そういった依頼に対応するうちに、見習いだった主人公(松坂桃李)は「死」と「生」について真剣に向き合っていくようになります。

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

精神科医

千田 要一

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

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【関連書籍】

幸福の科学出版 『幸福感の強い人弱い人 最新ポジティブ心理学の信念の科学』 千田要一著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=780

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