《本記事のポイント》

  • 衆院解散総選挙の最大の争点を「全世代型社会保障」とする方針。
  • イギリスは福祉国家化で"英国病"を患い、衰退した。
  • いたずらに社会保障費を増大させるのは選挙のための「合法的買収」か。

北朝鮮情勢が緊迫する中であっても、自民党は最大の争点を「憲法改正」とはしないらしい。

衆議院解散の意向を示した安倍晋三首相は、「全世代型社会保障の実現」、「北朝鮮への圧力強化を継続」、「憲法に自衛隊根拠規定を明記」の3点を柱にする方針と各紙が報じている。

その中での最大の争点は、「全世代型社会保障」なのだという。その中身は、2019年10月に消費税を10%に増税した際の、増収分の使い道の変更だ。当初は高齢者の社会保障制度を維持するための増税のはずだったが、幼児教育の無償化や高等教育の負担軽減など、子育て支援にあてるという。実質的には、「新たなバラマキ」だ。

この「全世代型社会保障」だが、かつてイギリスが苦しんだ「英国病」の大きな原因でもある、「ゆりかごから墓場まで」をスローガンとした社会保障政策と基本的な考え方が共通している。

福祉に偏りすぎた英国経済

イギリスでは1942年、経済学者ビバリッジを委員長とした委員会が、社会保障計画の大枠を示した。国民全員に最低限の生活水準を保障することと、その財源を労働者と使用者の負担する保険料によってまかなうことが提示された。

これを受けて、イギリスは「基本政策の枠組み」として、保守党・労働党を問わず、ケインズ主義に基づく経済政策と、完全雇用追及・社会保障充実を掲げ、各種社会保険、健康保険に加え、児童手当等への十分な給付を実施する社会を目指すようになった。

その結果、1970年代には、経常収支・財政収支は悪化、インフレ率が2桁台に達し、景気は停滞するという、スタグフレーションに陥ったのである。

この福祉に偏りすぎたイギリスの危機を救ったのが、サッチャー政権である。サッチャーは、「経済面での自助努力」を掲げ、社会保障費を大幅に削減し、国有企業を次々に民営化するなど、大胆な改革を実行した。

その結果、イギリスの経済成長率は79年~82年の平均が0.1%だったのに対し、87年には4.4%まで上昇、財政収支は90年度までに黒字化し、政府のGDPに対する債務比率は30%未満に縮小するなど、一定の成果を上げたのだ。

学力低下も招いた"手厚い"教育政策

「ゆりかごから墓場まで」は、教育面においても失敗した。

当時は、5歳から15歳(後16歳)までの義務教育の無償化と、地方教育当局(LEA)による教育計画の管理が進んでいた。1944年に成立した教育法では、公的な教育の概念を拡大し、LEAの下で幼児学校から地域センターによる教育サービス、18歳までの青年に対する多様な形態の義務教育の継続と、手厚い就職保障のための多様な教育の実現を掲げていた。

しかし、そうした教育の結果は、学力の低下となって表れてしまった。

サッチャー政権は1988年、教育法の大胆な改革を行った。例えば、親の学校選択権は拡大し、学校が集めた生徒数に合わせて補助金が出る仕組みや、LEAが学校を強力に統治するスタイルから、学校が独自の財政、人事、方針決定権を持つスタイルへの転換など、教育に競争や成果主義が取り入れられるようになった。

その結果、ナショナルテスト(全国学力テスト)で平均を超える生徒の割合が増え続けるなど、かなりの成果が上がったという。

いたずらに社会保障費を増やし、不要不急の層にまで適用範囲を拡大していけば、国力は衰退し、国民の所得や納税額は減り、財政赤字はさらにひどくなる。選挙のたびに行われるバラマキは合法的買収であり、国を停滞させていく。

サッチャー時代のイギリスに学びつつ、今日本に必要な施策を再考する必要がある。

(HS政経塾 須藤有紀)

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