《本記事のポイント》

  • 学力テストの結果を「整数」で発表した
  • 結果発表をあいまいにすれば、成果が十分に表せない
  • 学校の成果を測ることで、教育の質が高まる

文部科学省はこのほど、全国の小学6年生と中学3年生を対象として行われる全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。

結果は、10年前と比べると、上位と下位の差が縮まっており、県をまたいだ指導法の学び合いや、学力の底上げの効果が出ていると評価されている。一方で、知識を応用して問題を解く「B問題」の正答率は、例年通り低く、応用力を高めることが課題として指摘されている。

学力テストの結果を「整数」で発表

さて、全国学力テストで毎回話題に上るのは、結果の公表の仕方だ。

今回、都道府県の平均正答率が、小数ではなく、「整数」で表記された。整数にすることで、全国の詳細な順位が分からないようにし、競争を和らげることが狙いだという。テストが近づくと、先生が過去問を毎日解かせたり、成績の低い子供に休むよう示唆したりするなど、過度な対策を行う例が複数報告されていたことが理由として挙げられている。

これまでにも、学校別の結果公表が原則禁じられていたが、川勝平太静岡県知事が2013年に学校ごとの成績開示に踏み切り、14年には、教育委員会の判断で公表できるようになっていた。

公表については、できるだけ詳細に明らかにするか、あいまいにしておくかの駆け引きが、延々と続いている。しかし、本来の目的に立ち返れば、「あいまい」な結果発表にはあまり意味がない。

全国学力テストは、1956年に一部の児童・生徒を対象として開始されたが、旭川地方裁判所が66年、教育内容への国家介入を禁じた当時の教育基本法第10条に基づき、「文部省(当時)が本件学力調査を通じ教育活動の内容に影響を及ぼすことは、それ自体不当」という違法判決を出した。その後、最高裁では適法とされるも、それ以降、全国学力テストは打ち切られる。

学校の教育成果を測ることで質が高まる

2007年、全員参加型の全国学力テストが41年ぶりに復活する。背景には、ゆとり教育による学力低下があった。3年ごとに実施される国際的な学力調査「PISA」の結果が、2003年、06年ともに下がり、06年では、数学的リテラシー10位、科学的リテラシー6位、読解力15位という最低値を記録した。

全国学力テストが復活し、学習指導要領も08年に改訂されると、09年のPISAの結果は、数学的リテラシー9位、科学的リテラシー5位、読解力8位を記録し、学力水準は回復へと転じた。結果を明確にすることで、現場の教育内容の改善につながったと言える。

つまり、全国学力テストによって競争にさらされているのは、「教育する側」である。行き過ぎた全国学力テストの対策を行うことや、詳細な結果の公表を避ける動きは、第三者に教育のありのままの姿を評価されることを忌避する意識の表れであろう。

一般社会では、仕事の成果が評価され、成果に応じて報酬が決まる。塾であれば、常にライバル社との競争にさらされている。志望校合格、成績アップという明確な成果が出なければ、人気がなくなり、経営が成り立たなくなる。

今回、政令指定都市別の平均正答率が初めて公表されたが、全体的には、同じ道府県の他地域より高い傾向が見られた。理由としては、大都市ほど学校以外で勉強する子供の割合が高いことが指摘されている。その意味で、国民の税金によって設立・運営される公立学校で十分な学力が身につかないのであれば、存在意義が問われるだろう。

学校や教師も成果を測ることで、教育力は向上する。情報公開をより進め、課題を浮き彫りにさせ、教育内容の改善を図る必要がある。

(HS政経塾 須藤有紀)

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