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《本記事のポイント》

  • 劉氏は中国政府に対して「恨み心がない」と語った
  • 「08憲章」に流れる「哲学」が共産党を怒らせた
  • 「魂」への確信が民主化運動の信念につながった

中国の民主活動家、劉暁波氏が13日に亡くなった。心よりご冥福を祈りたい。

劉氏は、1989年の「天安門事件」をはじめとする中国の民主化運動で活躍し、服役中の2010年にノーベル平和賞を受賞した。中国当局がノーベル賞授賞式への出席を認めなかったため、世界から批判を浴びたニュースを覚えている人も多いだろう。

今年5月末に末期がんと診断され、6月末に仮釈放を認められて病院へ移送されたことが報じられたばかりだった。

本人や家族がドイツやアメリカでの治療を希望していたものの認められず、61歳の生涯を終えた。

授賞式への出席や海外の病院での治療を認めなければ、中国は国際世論の批判を浴びるリスクがある。そうしたリスクを覚悟してでも、劉氏を海外に出すことを拒んだ。

中国をここまで恐れさせた劉氏は何を訴えていたのか。

恨みではなく許しと祈りで闘った

自由のない中国で、多くの人たちが自由を求めて闘ってきた。民主活動家の中には、中国の窮状を国外から訴えるために、言論や表現の場を求めて海外に亡命した人も多い。

一方で劉氏は、中国国内にとどまり続け、中国を変える道を選んだ。投獄されたり、軟禁状態におかれて情報を遮断されたり、自由な言論活動の道を閉ざされたりしても、あらゆる機会をとらえて、中国を自由と民主主義を尊重する国家に変えるため、信念をもって運動を続けてきた。

1989年の民主化運動の際も、学生たちに「恨みを捨てよう。恨みは私たちの心をむしばむ。私たちに敵はいない」と訴え続けた。

その精神は、2009年に劉氏が自らの裁判の判決に先立って書き上げた陳述書の中にも表れている。

「私は、自由を奪った政府に対して伝えたい。《中略》『私には敵はおらず、憎しみの気持ちもない』と」

「私は個人的な境遇を超越し、国家の発展と社会の変化を見据えて、最大の善意をもって政権からの敵意に向き合い、愛で憎しみを溶かしたい」

「表現の自由は人権の基礎であり、人間性の根源、真理の母である。言論の自由を封殺することは、人権を踏みにじり、人間らしさを閉じ込め、真理を抑圧することなのだ。(中略)私がしてきたあらゆることは罪ではない。たとえ罪に問われても、恨みはない」

強い信念と祖国への愛に裏打ちされたメッセージは、ノーベル賞授賞式においても読み上げられ、全世界に大きな影響を与えた。

暴力は暴力を持って屈服させることができるが、信念と愛は消すことができない。何をしても揺らがない劉氏の精神は、中国当局にとって厄介だったに違いない。

自由の本当の価値を訴えた「08憲章」

劉氏が最後に拘束された理由は、中国の自由と民主化を求める文書「08憲章」を起草したことだという。

中国当局は「国家と政権の転覆を煽った」とするが、その内容は、信教、言論、結社、集会の自由、私有財産の保護など、自由主義国家なら当然の内容ばかり。中国の憲法も「表向き」掲げているものが多い。

違いは、その哲学にある。「08憲章」は、自由や人権がなぜ大事なのかを普遍的な言葉で訴えている。

「自由は普遍的価値の核心である。(中略)自由が盛んでなければ、現代文明には値しない」

「人権は国によって与えられるものではなく、各個人が生まれながらに有し、享受する権利である」

信念の根底にあった霊魂への確信

劉氏を突き動かしたものは何だったか。その奥には、目には見えない霊や魂への確信があった。氏は、軟禁状態に置かれ、情報の収集や発信を禁じられた状態で、以下のように述べている。

「自由を失った日々、からだは暗闇に落ちたが、かえって魂が霊魂(※六四天安門事件で犠牲になった人たちの魂を指す)と対話する時間ができた。《中略》自由を渇望した人は死んだが、霊魂は抵抗のなかで生き続けている。自由から逃避した人は生きているが、魂は恐怖のなかで死んでいる」 (『天安門事件から「08憲章」へ』藤原書店)

ここには、たとえこの世の生命を失っても、自由を求める精神を失わなければ魂は生き続けることができるという信念がある。逆に言えば、自由を求める心を失った時、肉体は生きていても、魂は死んだに等しいということだ。

命がけで自由を訴えた劉氏の人生は、人間にとって最も大切なものは何かを私たちに問いかけている。劉氏は亡くなったが、その魂は中国の人々の中で生き続け、自由の国へと脱皮する原動力となることだろう。

(小川佳世子)

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