《本記事のポイント》

  • トランプ政権は、中国の対北圧力の実行力に失望し、中国企業に制裁を発動。
  • 融和路線の方針を転換させたのは、ワームビア氏の死去と外交・安全保障対話への不満。
  • 中国の出方次第で、南シナ海での「航行の自由」作戦が再開される可能性も。

トランプ政権は6月29日、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮と違法な取引を行う中国の金融機関・企業に対する制裁を発動するとともに、台湾へ約14億ドル(約1570億円)相当の武器売却を決定し、米議会に通告した。中国の協力が望めないと見て、これまでの融和路線を修正した模様だ。

30日に行った韓国の文在寅大統領との共同記者会見で、トランプ氏は、昏睡状態で解放されて亡くなったアメリカ人大学生、オットー・ワームビア氏に触れ、「北朝鮮への『戦略的忍耐』は失敗に終わった」とし、オバマ政権の対北朝鮮政策を批判。日本や韓国と協力し、北朝鮮への制裁強化などを通じた圧力を強めていく考えを示した。

4月の米中首脳会談以来、トランプ政権は、中国の北の核開発停止への協力を期待してきた。だがその後も、北朝鮮によるミサイルの発射実験は一向に止む気配はない。

トランプ氏は、「(中国を通しての北への圧力は)うまくいっていない」とツイート。マクマスター米大統領補佐官も、「中国が十分に対応しているとは思わない。なぜなら問題は解決されていないからだ」と、これまで成果が上がってこなかったことを問題視している。

今回、米財務省は、北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関わったとして、中国の遼寧省丹東市の「丹東銀行」に、米金融機関との取引を禁じた。北朝鮮が外貨取引の隠れみのにしてきた銀行を制裁対象に加えたことで、北朝鮮にも一定の打撃となる見通しだ。

何が中国との協調路線を転換させたのか?

トランプ氏の方針転換の背景には、ワームビア氏が亡くなったことと、6月21日の米中両国の閣僚による「外交・安全保障対話」の結果への不満がある。

ワームビア氏の死亡を受け、トランプ氏は「親にとり、子どもを失うほど悲惨なことはない」「わが政権の決意は深まった」などと発言。

また外交・安全保障対話では、米国は中国側に対し、制裁逃れをする中国企業の取締りの強化や、北朝鮮への原油の供給停止などを求めたが、中国の楊潔篪(よう・けつち)国務委員は、「米韓軍事演習と北朝鮮の核・ミサイル活動は同時に停止すべきだ」と以前からの主張を繰り返すばかりで、会談は険悪な雰囲気になったという。

しかも楊氏らは、共同文書を拒否し、共同記者会見も平然とボイコット。記者会見では、米側のティラーソン国務長官とマティス国防長官のみが会見する異例の事態となった。

トランプ政権は今後中国にどんな圧力をかけるのか?

今回、制裁対象となった中国の銀行は、米国がもともと、制裁が必要だとリストアップしていた中国企業10社のうちの1社であったことから、制裁の効果は限定的であり、「中国の反応を見る程度」にとどまる。また、台湾へ売却された武器についても、最新鋭戦闘機が含まれていないなど、「予想の範囲内」という声もある。

だが、マクマスター米大統領補佐官は、6月28日に開かれたシンクタンクの講演で、「(北朝鮮問題は)過去のいかなる段階よりもたいへん緊急性の高い」ものとし、軍事的手段も含めたすべての選択肢を準備するようにトランプ氏から指示されたことも明らかにしている。

7月7日、8日には、主要20か国・地域(G20)首脳会議がドイツで開かれ、米中の首脳が再び会談する予定だ。中国の出方によっては、米国がこれまで抑制していた南シナ海での「航行の自由」作戦が再開される可能性もある。

「米国第一主義」を掲げるトランプ氏は、「中国よりも内向きだ」と批判されることがある。だが、1月の大統領就任式で「Together, we will determine the course of America and the world for years to come.(私たちはともに、今後、長期にわたるアメリカと世界の進路を定めていきます)」と述べたように、トランプ氏の米国第一主義は、世界全体に対する責任のなかに位置づけられるものだ。決して、孤立主義的な外交ではない。

日本も、今回の制裁に同調する方針だが、さらなる対北制裁の強化で米国との協調路線を維持しつつ、敵基地攻撃能力の確保や、サイバー攻撃への対策など、自分の国は自分で守る体制づくりを急ぐべきだ。

(長華子)

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