《本記事のポイント》

  • 香港の新行政長官が「中国人意識を高める教育必要」
  • 香港人の多くは「自分は中国人ではない」との意識
  • 香港内外で民主化を後押しする動きを

香港政府のトップである行政長官に7月1日に新たに就任する林鄭月娥(キャリー・ラム)氏はこのほど記者会見を行い、幼少期から中国人意識を高める教育を行う必要性を主張した。

林鄭氏は、「『私は中国人です』という概念の養成をすべきだ」と述べ、中国史を中学校の必修科目とする考えを示した。

1997年の中国への返還後、香港では2003年ごろから「愛国教育」の導入が進んだ。この「愛国教育」とは、「香港は中国の一部である」という意識や、中国共産党の偉大さを教え込み、香港人を中国人として教育するというものだ。

香港政府が2012年、中国共産党に都合よく解釈された歴史を盛り込んだハンドブックの配布を行い、本格的な「愛国教育」へ踏み切ろうとした。すると、香港で大規模な反対デモが起こった。この時、愛国教育の本格化は断念されたが、林鄭氏の主張は、愛国教育の流れを再度打ち出すものといえる。

香港人の大部分は「自分は香港人」と回答

林鄭氏が愛国教育を進めたい背景には、香港の若者を中心に「中国離れ」が進んでいることがあるとみられる。

香港大学が最近行った世論調査では、自らを「香港人だ」と回答した人は63%である一方、「中国人だ」と回答した人は35%にとどまった。実際に本誌が2015年に香港を訪問して街頭インタビューを行った際も、数多くの香港人が中国を"Mainland China"と呼んで香港と区別し、自分を「中国人」とは考えていないと語っていた。

教育を通じて香港人のアイデンティティを無理やり変化させようとしていることこそ、一国二制度で保障された民主主義が失われつつあり、中国共産党に都合の良い統治が始まっていることを示している。

民主派は7月1日に大規模デモを計画

もちろん香港国内には、こうした流れに抵抗する勢力も存在する。「民主派」と言われる人々だ。その勢力の1つである「香港衆志」のメンバーが6月半ばに来日して記者会見を行った。

「香港衆志」は雨傘革命の中心となって動いた学生団体「学民思潮」のメンバーがリーダーを務めており、今回来日した黄之蜂氏と周庭氏もその中心人物だ。記者会見では、香港の一国二制度が侵害された状況にあると習近平政権を直接的に批判。民主派のメンバーは、7月1日の行政長官就任、香港返還20周年に合わせてデモを行う予定だという。

民主派の動きが高まる一方、中国共産党も黙ってはいない。7月1日に合わせて、中国初の空母「遼寧」を香港に派遣し、習近平国家主席も香港入りする予定だ。中国政治の最大のヤマ場である中国共産党全国代表大会を今年秋に控える習氏は、香港の民主化の流れを封じ込め、権力を集中したい考えとみられる。

香港内外で中国の圧力を跳ね返す動きを

香港における「法の支配」を守り、一国二制度の順守を求める活動を続けることは重要だ。しかし、中国が今後ますます香港への支配を強めていくことは明らかだ。香港内部の民主化運動をさらに後押しするためには、国際メディアによる発信や、日本やアメリカを始めとした自由・民主主義国家が連携し、中国に圧力をかけていく動きが必要だ。(祐)

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