《本記事のポイント》

  • 『君の名は。』『ボク、運命の人です。』に見る「運命の赤い糸」型のストーリー
  • 日本最古の長編小説『源氏物語』には「宿世」の世界観がある
  • 日本人と西洋人を分けるのは「前世の観念」!?

昨年大ヒットした映画『君の名は。』、現在放送されているドラマ『ボク、運命の人です。』――。最近のエンタメ作品の中で、「運命の赤い糸」ものが目につく。

「会ったことがないが、夢で入れ替わる男女が、お互いを探す」「山下智久さん演じる、自称『神様』が、運命でつながった男女を結び付けようとする」という設定は、一風変わっているように見える。

しかし、日本の古典文学を見てみると、意外と王道ストーリーのようだ。

『源氏物語』に流れている「宿世」の世界観

日本最古、そして世界最古の長編小説とされ、日本文学を代表する『源氏物語』。この物語の根底に、「人は予め定められた運命に導かれ、翻弄される」という「宿世」の世界観があることが、よく言われている。

源氏物語には、こんなストーリーがある。

◆               ◆               ◆

18歳の光源氏が耳にした「ある女性」の話

宮廷に生まれた光源氏は、幼い頃に母を失った。その亡き母の面影を求め、様々な女性と恋をする。

そんなある時、自分の従者との雑談の中で「明石の入道」という男の話を聞く。

その男は、都で出世を諦め、明石(現在の兵庫県)で暮らす。娘には「自分の希望しない結婚でもしなければならなくなった時には、海へ身を投げてしまえ」と言っている。

光源氏はその話の娘に、何となく興味を持ったが、しばらく忘れてしまう。18歳のときの話だった――。

重なる不運は「前世の罪」!?

26歳ほどになった光源氏は、順調に出世していた。しかしある時、不運が襲う。

自分のことを疎んじている政敵の孫が、天皇に即位したのだ。それにより、政局は政敵の思うままに動かされるようになる。

さらに不幸なことが起きた。光源氏が密かに恋愛関係にあった女性が、なんとその政敵の娘だったのだ。そしてなお悪いことに、その女性は天皇に嫁ぐ予定だったことが分かった。

光源氏は、そのことに因縁をつけられ、「天皇への謀反の疑い」がかけられる。その結果、都を離れざるを得なくなってしまった。

光源氏はこの不運を、「前世の罪の報い」と嘆く。

謎の嵐と、不思議な夢

光源氏はしばらく、須磨(現在の兵庫県・神戸市)で詫び住まいをしていた。

ある時、様々な心労が重なったので、陰陽師に海岸でお祓いをしてもらった。すると突然、激しい嵐が吹き荒れ始めた。

避難した光源氏が、翌日の明け方にまどろんでいると、不気味な夢を見る。人間でない何かが、自分を探しながら、「なぜ王が呼んでいらっしゃるのに来ないのだろうか」と言っているのだ。光源氏はその後も、同じ夢を見続ける。

その後も嵐と雷は激しさを増す。光源氏は神に「嵐を鎮めてください」と願をかけた。するとなぜか、廊に雷が直撃し、火事になってしまったのだ。

しばらくして、嵐は収まった。光源氏は、嵐と火事で滅茶苦茶になった家の中で座り込み、惨めな気持ちのまま、うたた寝していた。すると故人が夢に出てきて、こう告げる。

「どうしてこんなひどい所にいるか。住吉の神が導いてくださるのについて、早くこの浦を去ってしまうがよい」

同じく夢に導かれて表れた男

その後、住まいのある海岸に、何者かが舟を漕いでやってきた。その人物は、「夢のお告げで、人間ではない何かに、嵐がやんだら舟を出せと言われた」と語る。

なんとその人物こそ、光源氏が18歳の時に話で聞いた、「明石の入道」だったのだ。

光源氏は、謎の嵐や、不思議な夢を思い出し、何か運命に導かれている気がした。思い切って、「明石に私の住めるような場所はありますか」と尋ねる。すると入道は喜んで、光源氏を自分の邸宅に迎えてくれた。

「明石の君」との契り

その邸宅に住んでいたのが、18歳のころふと気になった「明石の君」だった。

光源氏と「明石の君」は、言葉を交わさなくても、内心惹かれ合うものがあった。ある時、「明石の入道」が、光源氏に娘との結婚を勧める。

それに対して光源氏は「無実の罪に当たって、思いもよらない地方に来ることになったのも、何の罪によるのかと分からなく思っていたが、なるほど浅くはない前世からの宿縁であったのだ」と考えるようになる。

その後、光源氏は明石の君と心を通わせ、ますます「生前からの契り」を感じるようになる。二人はめでたく結ばれ、「明石の君」は、子を腹に宿す。

光源氏は皇子の祖父に

その後、光源氏は都から呼び戻される。最初は泣く泣く「明石の君」と別れたが、後に都に呼び寄せる。生まれた娘である「明石の姫君」も一緒だった。

それから時間が経ち、愛娘「明石の姫君」は成長していった。そしていつしか、皇子に寵愛され、子を宿す。その皇子は天皇に即位し、子供が第一皇子となる。

その知らせを聞いた「明石の入道」は、光源氏に「『明石の君』が生まれたとき、夢で『娘から将来の天皇が生まれる』というお告げを聞いていた。だから、都でも通用するような教育をし続けてきたのだ」と告白した。

それから光源氏は皇子の祖父という立場となり、栄華を極めることになった――。

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日本人と西洋人を分けるのは「前世の観念」!?

「会う前から存在している契り」があり、夢や、人間ならざる何者かがその予兆を告げる。そして振り返れば、様々な出来事が、点と点が線になるように、二人が出会うための伏線になっていた――。

日本最古の長編小説『源氏物語』には、『君の名は。』や『ボク、運命の人です。』などに見られる、「運命の赤い糸」的ストーリーの原型があるのかもしれない。

実際、物語には「宿世」を表す言葉が、277も出てくる。様々な説話の中で、登場人物が自分の身に降りかかる出来事を、「生前からの縁や運命だったんだ」と感じて感慨にふける。この運命への感慨が、古典の授業で習う「もののあわれ」と通じるとする専門家もいる。

「宿世」の世界観は、仏教から来ている。「人は繰り返し生まれ変わっている」という思想が浸透していたので、当時の人たちはより共感を持って作品を読んだのだろう。

明治時代に日本に帰化し、その文化を研究した小泉八雲というギリシャ人は、日本人と西洋人の一番の違いは「前世の観念」だと述べた。

そして現代の日本人も、頭では「運命、前世なんて……」と思いつつも、どこかに「運命を感じてぞくぞくする」感性が残っているのかもしれない。

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「運命」「前世」に関わる作品としては、5月20日に公開される映画『君のまなざし』も要注目だ。キャッチコピーは「運命を変える、もうひとつの世界。」。

現代を生きる人たちを結ぶ、平安時代から続く深い因縁を解き明かす内容となっている。人生における出会いや、苦難・困難には必ず意味があることを感じられる映画だ。

【関連ページ】

映画「君のまなざし」公式ホームページ

http://kimimana-movie.jp/

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