《本記事のポイント》

  • 初期においては確実に効果を発揮した異次元緩和
  • 消費増税からピッタリ効果が消えた
  • 消費税ショックを取り戻そうと様々な手を打つも……

黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁が進めてきた大規模な金融緩和、いわゆる「異次元緩和」が始まってからちょうど4年が経過した。

5日付各紙は、その総括を掲載し、十分な成果が出ていないことや、今後の見通しの悪さを指摘。中には、異次元緩和について、まったく効果がなかったとして、黒田総裁を批判する論調もある。しかし、むしろ黒田総裁は被害者といえるのではないか。

初期においては確実に効果を発揮した異次元緩和

そもそも異次元緩和とは、アベノミクスの「第一の矢」として13年4月4日から行われている金融緩和のこと。「物価上昇率2%を目標に」「日銀が国債を年間50兆円のペースで買い込むことによって、市場に出回っている資金量を大きく増やす(当時)」という大胆なものだった。

異次元緩和は、初期においては、大きな効果をあげた。13年3月時点では、-0.4%ほどであった物価上昇率は、異次元緩和実施後1年が経過した14年3月時点では、1.5%にまで上昇している。この間、円安、株高も進み、経済は回復に向けて順調に進んでいた。

消費増税からピッタリ効果が消えた

順調に見えていた異次元緩和政策は、突然腰を折られた。

1.5%であった物価成長率は、14年3月をピークに、たった10カ月後の15年2月には0%まで落ち込んだ。

このタイミングから、何が原因であったのかは明らかだ。14年4月より実施された消費税5%から8%への増税である。

人々の財布のひもは固くなり、物が売れなくなった企業は銀行から積極的に資金の借り入れをしない。日銀が増やしたお金も循環しなくなってしまった。結果、順調に伸びていた物価上昇率も急落した。

消費税ショックを取り戻そうと様々な手を打つも……

物価上昇の失速に対して、日銀も様々な手を打ってきたが、すべては空振りに終わった。

まずは、14年10月、年間30兆円にも上る追加緩和を実施。一瞬の期待感が株価をあげたが、物価指数にまで影響は及ばなかった。

16年2月には、マイナス金利を導入。銀行が日銀にお金を預けると、手数料が取られるという"劇薬"だったが、銀行の収益を圧迫するだけの結果に終わった。

成果を見いだせないまま国債の買いこみを続けてきた日銀も、いよいよ限界を迎えつつある。

日銀の国債保有残高が、17年には500兆円に達し、日本のGDPを超えてしまいかねないと言われている。先進国の中央銀行が、ここまでの水準で国債を保有したことはかつてない。その結果、国債に対する信用が大幅に失われることになれば、国債が紙切れとなる可能性があるとも指摘されている。

これを怖れた日銀は、16年9月、政策を「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に転換すると発表。簡単に言えば、「これ以上金融緩和を進めると危ないので、少しずつ緩和を弱めていきます」ということだ。「間もなく打つ手がなくなる」と宣言したに等しい。

この四年間を振り返ると、当初は効果を発揮していた金融緩和も、消費税増税以降は効果を失った。そして、物価下落に歯止めをかけようと頑張ってきた日銀は、今限界を迎えようとしている。

まさに、黒田総裁は、安倍政権の失政の犠牲者だ。

そのような中で消費税をさらに10%に引き上げようとするなら、日本経済の自殺行為に他ならない。今必要なのは、消費税5%への引き下げである。(和)

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