《本記事のポイント》

  • 豊洲に環境基準の100倍のベンゼンが含まれていたとの結果
  • 環境基準とは、飲み続けることを前提とした数値
  • 数字に振り回されて大局を見失わないよう注意

東京・豊洲の移転問題をめぐり、新たな水質データが出てきた。第9回目の地下水の検査の結果、環境基準の100倍のベンゼンが含まれていたというものだ。小池百合子都知事は「この結果を重く受け止める」と発言。豊洲移転が難しいとする根拠の一つとしていくものとみられる。

そんな中、築地市場では17日、海水ポンプが故障し、床の洗浄や活魚の水槽に使うろ過海水が供給されない事態に陥った。このポンプは1961年に設置されたもので老朽化が進み、修理には時間がかかるという。豊洲か、築地か――。二つの現実がぶつかり合う。

しかし、本欄でも報じてきたように、築地市場はベンゼンを含むディーゼルガスが漂っており、空気中のベンゼンは、豊洲より築地の方が高濃度との計測結果もある。

小池知事は、今月10日の記者会見では「地上と地下を分けるという考え方を、消費者が理解してくれるか」と発言している。しかし、実際に魚に触れる空気中のベンゼン濃度の方が、コンクリートの向こうにある地下水のベンゼン濃度よりも切実な問題だろう。

環境基準って何が基準なの……?

また、「環境基準」という言葉についての誤解もある。これまで「環境基準の何倍」という表現で、豊洲の危険性は語られてきた。しかし、報道においても、この「環境基準」という数字が持つ意味が語られることはそれほどない。

環境省は、地下水経由の土壌汚染の環境基準について、「70年間、1日2リットルの地下水を飲用すること」を想定して出している。通常ではまずありえないほど厳しい条件で定められた基準であることを踏まえておきたい。第一、豊洲の地下水は飲料用に使うものではない。

そもそも、環境省は環境基準の定義について、「人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として、終局的に、大気、水、土壌、騒音をどの程度に保つことを目標に施策を実施していくのかという目標を定めたもの」としている。

これはつまり、「その基準を超えていたなら、飲み水としては適当でない」「値が下がるよう対策すべき」ということを示す、目標値だということだ。現に豊洲では、物理的に、地上と地下はコンクリートで隔てられている。また、土壌対策工事を行い、汚染された地下水の浄化システムや、地下水が地上に上がってこないようにする管理システムも採用されている。

豊洲移転が遅れることによる水産業の損失額は40億円ともされ、資金繰りの厳しくなる仲卸業者の廃業も危ぶまれている。

数字には、必ずその意味がある。「基準値越え」という言葉に振り回され、物事の大小を見落としてはならないのではないだろうか。(晴)

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