2017年1月号記事

電通を責めるだけでいいのか?

経営者の立場からの

本当の「働き方改革」

「長時間働かせる会社はブラックだ」など、従業員の立場に立った「働き方」の議論がなされている。

だが時には、従業員を雇う経営者の立場に立って考えてみてもいいのでは?

(編集部 小川佳世子)

従業員の自殺が労災認定された大手広告会社・電通に対し、11月初旬、複数の社員に違法な長時間労働をさせていた疑いで強制捜査が入った。

これに先立つ9月、政府は内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設けた。その際、安倍晋三首相は、「『モーレツ社員』の考え方が否定される日本にしていきたい」「長時間労働を自慢する社会を変えていく」と表明。電通への強制捜査は、長時間労働を悪とする政府の姿勢を示している。長時間労働への監督・指導を強化するため、労働基準監督官も増員する方針だ。

都内で事務所を開く社会保険労務士は、「以前は調査に入らなかったような小さな企業にも、近頃、労働基準監督署の調査が入っているようです」と話す。

地方都市で小売店を経営する社長もこう嘆く。

「長時間労働を取り締まる流れの中で、一部社員の権利意識が高まっています。友人の経営者から聞いたのですが、自主退職した社員が突然、『未払いの残業代がある』と要求してきたそうです。昔はこんなことなかったのに……。タイムカードで管理しても、『もっと働いた』と主張すれば、裁判では社員の方が有利です。正社員を雇うこと自体、リスクです。最近は正社員の割合を減らし、時間管理のしやすいパート従業員を多く雇うようにしました」

日本の労働時間は減少?

ここまで敵視される長時間労働だが、諸外国と比べると、日本の労働時間のみ突出して多いわけではない(上)。さらに日本全体で見ると、トータルの労働時間は減少傾向にある。1980年に2104時間だった日本の労働時間は、2015年には1734時間に減少している。社会問題化する長時間労働について、冷静に考えてみたい。

電通の長時間労働問題の経緯

2015年12月 電通でインターネット広告業務を担当していた入社1年目の女性社員(当時24)が寮から飛び降り自殺

2016年9月 三田労働基準監督署は、1カ月の時間外労働が約105時間に達していたとして、労災認定

11月 厚生労働省は電通本社などを強制捜査

日本だけが「長時間労働」ではない

1人当たり平均年間総実労働時間(2015年)

1.韓国 2113.時間

2.アメリカ 1790.時間

3.ニュージーランド 1757.時間

4.日本 1734.時間

5.イタリア 1725.時間

6.カナダ 1706.時間

7.イギリス 1674.時間

8.オーストラリア 1665.時間

9.フィンランド 1646.時間

OECD Databaseより
※日本は厚生労働省のデータを使用

次ページからのポイント

インタビュー 法整備と企業の努力で働き方を変える / 新田龍氏

経営者はツライよ 時間の質は問わない「労働法」