デンマーク首相やNATO事務総長を歴任したアナス・フォー・ラスムセン氏が、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「アメリカは世界の警察たるべき」という旨のコラムを寄稿した(22日付)。

コラムの概要は以下のとおり。

  • 世界が混とんとする中、「世界秩序」を守れるのは、国力と精神性どちらも兼ね備えたアメリカしかいない。背後から導くのではなく、先頭に立って導く大統領が必要だ。

  • オバマ大統領は世界を導くことに対して及び腰であったが、それは深刻な事態を及ぼした。

  • 第二次大戦後に築かれた国際法に基づく秩序は世界を守るものであり、前例のない平和と進歩と繁栄をもたらしている。

  • アメリカの孤立主義は、アメリカ及び他の自由を愛する諸国に安全と繁栄をもたらすものではない。むしろ、独裁者や迫害者を世界に蔓延させることとなる。

  • アメリカの孤立主義は、いままで多くの人々に自由と繁栄をもたらしてきた、法に基づく世界秩序を将来的に危険にさらすこととなる。

トランプは孤立主義か?

オバマ大統領の失敗を的確に表している一方で、名指しはしていないものの、米大統領候補であるトランプ氏が、孤立主義に向かうのではないかという懸念も感じられる。トランプ氏は、在外米軍に関して相手国への資金負担を求める発言をしているからだ。

しかし、トランプ氏は相変わらず「アメリカ第一主義」を掲げてはいるが、その外交政策は立候補当初とは変化してきている。

9月上旬に発表した外交政策では、「強さを通じた平和」を掲げ、国防予算の上限を撤廃して軍用機や兵士増員などを行い、軍事力を増強すると訴えた。以前は貿易の文脈でしか語られなかった中国についても、南シナ海での覇権拡大は許されないと踏み込むようになった。

トランプ氏が孤立主義であると決めつけるのは早計だ。これまで経営者として磨いてきた分析力や判断力は、政治家としての外交知識が深まれば深まるほど生きてくるだろう。

多極化する世界のなかで日本は?

ラスムセン氏の寄稿は、いわゆる「戦勝国史観」にもとづいているように見える。また、冷戦時代と同じようにロシアを警戒し、プーチン大統領を独裁者と呼んでいる。これは、欧米ではよくある意見だろう。

しかし、アメリカが世界の警察に戻ることは必要だが、冷戦後のようにアメリカ一国だけが強い「一極支配」で世界の安定を保とうとするには限界が来ている。

中国の覇権拡大、ソ連崩壊から立ち直ったロシア、成長を続けるインド、ヨーロッパの実質的なリーダーとなったドイツ、アメリカの思い通りにならない中東諸国……。各地域で力を持った国が出てきている。戦勝国史観や、反射的にロシアを悪と見なす姿勢は、そろそろ改めるべきだ。

日本もそうした中で、東アジア地域の大国の1つとして、世界への責任を果たしていくことが求められている。アメリカが世界の警察としてのリーダーシップを取り戻すとともに、日本も世界秩序を守る気概を持つ必要がある。(片)

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