福島第一原発事故後、福島県郡山市から京都府京都市に自主避難した40歳代男性と妻子4人が、東京電力に計約1億8000万円の損害賠償を求めた訴訟で、京都地裁が男性と妻に計約3000万円を支払うよう、東京電力に命じた。このほど各紙が報じた。

自主避難者に対して損害賠償を認めた判決は、今後、同様の訴訟に大きな影響を与えそうだ。

避難について裁判所の判決は?

判決によると、男性は家族と避難指示区域外の郡山市に住んでおり、複数の飲食店を持つ会社を経営していた。事故を受けて避難し、社長を辞職するが、転居先では仕事がうまくいかず、不眠症を訴え、働けなくなった。同年5月からうつ病などの精神疾患と診断されているという。

男性側は、郡山市は年間の被ばく量が1ミリシーベルトを超えるとして避難の必要性を主張していたが、京都地裁の三木昌之裁判長は、国際的に合意された科学的知見などから、「年20ミリシーベルトを下回る被曝が健康に被害を与えると認めるのは困難」と判断。2012年9月以降、郡山市では年20ミリシーベルトを大きく下回り、自主避難を続ける合理性は認められないとした。

その一方で、男性が発症した不眠症やうつ病は原発事故が原因の一つであり、避難のストレスから就労困難になったとして、休業損害が認められると判断し、約3000万円の賠償を命じた。

必要以上の避難民発生の原因

この判決は非常に不可解だ。「避難に合理性なし」とした点は正しく、健康被害が認められないのだから避難する必要はない。それなのに「精神疾患は原発事故が原因の一つ」として、東京電力に3000万円もの賠償を命令するのは問題がある。

精神疾患の直接の原因は、避難によって生じたストレスだろう。そして、避難の「遠因」の一つはたしかに原発事故だ。ただ、自主避難を決めた原因は、避難の必要性ではなく、放射線への恐怖ではないか。

この放射線への恐怖は、政府やマスコミによって過剰に煽られていたところがある。今回の判決通り、年20ミリシーベルト以下での人体への健康影響は認められていない。それどころか、国際的には年100ミリシーベルト以下でも影響は確認できないとされている。

にもかかわらず、政府は一部地域に避難指示を出した。近隣の地域に避難指示が出れば、指示が出ていない地域の住民が恐怖を感じるのは当然だ。また、例えばよく報道される「福島の子供の甲状腺異常」も、全国平均で見ると差はない。放射線防護学第一人者の、高田純・札幌医大教授も、「福島は安全」と何度も発信している。

つまり、今回の原発事故では、政府による冷静な対処やマスコミの正しい情報発信があれば、避難などしなくてよかった。

解決すべき問題は避難した人々の再出発

東京電力は休業損害を含まない300万円を、すでに男性らに賠償しているという。これを不十分とした男性らは、国の「原子力損害賠償紛争解決センター」にADR(裁判外紛争解決手続き)を申し立て、1100万円の賠償額を示されたが、男性らは拒否し、今回の提訴になったという。

避難で生活が一変し、大変なのは理解できる。もちろん、当時の政府による誤った避難指示や、マスコミによる必要以上の恐怖をあおった報道にも問題はあった。だが、自主的に避難したのであれば、賠償を求める裁判を続けるよりも、新しい生活を立て直すことに念いを向けていただきたい。

(HS政経塾 表奈就子)

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