4月から始まる「電力の小売り全面自由化」に伴い、東京電力が7日、最大で約5%安い家庭向けの新しい料金プランを発表した。電気需要が多い関東地方では、すでに東京ガスなどの新規参入事業者が、東電よりも安いプランを発表するなど、電力価格の競争時代に突入しつつある。

「電力小売りの全面自由化」とは、東電などの大手電力による電力販売の独占をなくすことを目的に行われたもので、これにより、一般家庭は自由に電力会社を選べるようになる。2020年には、小売りの自由化に加えて、発電の自由化を目的とした「発送電分離」も行われ、電力業界の自由化が一層進む。そのスタートとなる今年は、「電力自由化元年」と位置づけられている。

確かに、自由化による価格の「値下げ」は、消費者にとっては歓迎すべきことだ。マスコミもその点に注目しているが、電力業界の未来を断片的に捉えている感はぬぐえない。

離島は電力自由化の恩恵を受けず?

例えば、電力需要が少ない離島は、自由化の「負の影響」を受ける可能性がある。108の島からなる対馬では、九州電力の豊玉発電所によって需要がまかなわれている。だが、本土から送電線が引けないために、離島での発電コストは、本土の2倍以上もかかり、市場原理に則さない。そのため電力会社は、離島と本土の電力価格を同じにしている。

今後、新規参入者が、コストに合わない離島に対して電力供給する可能性は考えづらい。電力販売の独占が批判されている電力会社だが、離島と本土を分け隔てることなく、ライフラインを支えている面を見落としてはならない。

エネルギー自給率は上がるのか!?

また、電力会社は、再稼働の見通しが立たない原発を多数抱えており、業績低迷が続いている。そうした中で価格競争にさらされれば、巨額の投資を必要とする原発の運営は難しくなるだろう。火力発電の割合が増せば石油のほとんどは輸入に頼っているため、エネルギー自給率の悪化は避けられない。輸入先である中東の情勢も、最近では「イスラム国」問題などで不安定さを増しており、エネルギー安全保障の課題もある。

海外では失敗事例も

さらに海外では、自由化によって逆に電力価格が上がったり、電力需要を満たすことができずに、停電が発生したりした地域もある。アメリカでは、電力自由化を断念する州も増えており、海外の先行事例にも目を向けるべきだろう。

電力会社には、本来、「安定的に電力を供給する」という使命がある。電力の値段だけでなく、安全保障上のリスクも考慮に入れ、日本のエネルギーの未来を考えるべきであろう。いわんや、左翼が主張するような「東電憎し」という感情論に引きずられてはなるまい。

(山本慧)

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