国際通貨基金(IMF)は11月末、中国の人民元を特別引き出し権(SDR)に加える見込みだ。IMFは、人民元に国際通貨としてのお墨付きを与えることになる。

ただSDRはIMFの公式準備資産であるものの、その存在感は薄い。2009年にも世界金融危機の対策の一環として、3000億ドル相当のSDRを新たに創出したが、ほとんど使われていない。またSDRの構成通貨に選ばれても、その通貨が世界で外貨準備資産として保有されるとは限らない。

人民元が国際通貨として世界で利用される条件として、17日付フィナンシャル・タイムズ(FT)は社説で、「人民元を大量に供給して海外へ送り出す準備を整える必要があると指摘。さらに「中国政府の資本移動に対する厳しい統制と、国際収支の大幅赤字を恐れるような姿勢は、それとは逆方向に働く」と、中国政府の金融支配を批判。人民元が本当に国際的に利用されるかどうかについては、疑問を呈している。

「中国の金融自由化が進む」との見方も?

一方で、SDRに人民元を取り込むことで、一定程度、中国の金融改革が進むとの見方も報道されている。

前述のFT紙も「人民元のSDRへの採用は、中国のシステム内部の自由化の力と、中国を世界経済の統治構造への統合に向かわせる力を高める」としている。

また、12日付英エコノミスト誌も、IMFが人民元の地位を向上させる暗黙の目的の一つとして、「人民元がSDRの構成通貨になれば、中国人民銀行の権威が強化され、同行が進める金融改革を後押しすることになる」と指摘している。

中国人民銀行は人民元のSDR採用に向けて、中国国債市場を諸外国の中央銀行に開放したり、人民元の管理方法を変更して変動相場制に近づけるなど、資本自由化に向けて改革を進めてきた。SDRに選ばれれば、より自由化への動きが進むと期待されているということだ。

中国にすり寄る欧州

中国の金融自由化が進むならば望ましいことだ。だが、人民元の国際通貨化の動きには注意が必要だ。中国は人民元の国際通貨化を通じて、金融面での世界覇権を狙っているためだ。

人民元のSDR採用の背景には、近年、イギリスやドイツを中心とする欧州諸国が、中国政府の要請を支持し始めたことがある。IMF内部でも「親中の欧州vs.反中の日米」の対立が鮮明化しているという。イギリスには、人民元決済の口座を金融都市ロンドンに構え、拡大が見込まれる人民元取引をそこに集中させる意図が見て取れる。

欧州諸国は、経済的利益のために、軍事拡張を続ける中国にすり寄ってはならない。その中国にすり寄る態度と行動が、中国の世界進出を増長させる。欧州諸国も、中国に毅然とした態度で臨み、南シナ海などでの行動について批判すべきだ。

人民元がSDR構成通貨に加わることで、金融面の自由化と政治面の自由化も進んでいくのか、それとも人民元の国際通貨化が進み、世界で中国軍の進出も進むのか、今後も注視が必要だ。(泉)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『中国と習近平に未来はあるか』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=818

【関連記事】

2015年10月27日付本欄 人民元が準備通貨SDRに採用!? 【リバ犬×そもそモグラ博士のそもそも解説】

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10390

2015年6月17日付本欄 中国人民元の実力 中国ウォッチャー・評論家の宮崎正弘氏に聞く(1)

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9763