環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋で合意を見た。予想以上に長い交渉となったが、合意は喜ばしい。今回の交渉で合意できなければ、アメリカ大統領選の予備選などが始まり、年単位で先送りされてしまうところだった。

TPP合意には2つの大きな意味がある。ひとつは、安全保障上のメリットだ。かねてから本誌でも指摘してきたように、TPPには経済における「中国包囲網」の意味がある。中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)などを主導しようとしている時、日米が中心となって、自由貿易や知的財産保護のルール構築など、中国が参加できない経済の枠組みが作れたことは大きい。

中国は、市場経済のルールに反して株価の乱高下を引き起こしたり、中国で経済活動を行う外国企業に適用するルールをコロコロ変えたりしている。こうした自由主義に反するやり方にあきれ果てた外資や外国企業が中国を避け始めている。また、諸外国に対してインフラ投資を持ちかけているが、中国人労働者を送り込むなどして現地の経済は活性化しない。

力ずくで経済的にも覇権を強める中国に対して、日米を中心とするTPP加盟国は、「法の下の自由」において最も経済は発展するということを示すべきだろう。

もう一つは、経済的なメリットだ。関税が撤廃されれば、輸入品は安くなり、消費者にとっても大きなメリットがある。また、日本の強みである工業製品、自動車等の分野では輸出が伸びることが期待される。たとえば、自動車部品の業界においては、米国の関税2.5%が撤廃されれば、企業の負担は年間500億円ほど軽くなるという。TPP域内での諸手続きが簡素化されることも大きい。「モノ・カネ」の回転スピードがあがることで、経済繁栄をもたらす条件のひとつが整う。

逆に農作物は、今まで高い関税で「守られて」いたが、これが異常な状態だった。日本政府は、コメについては高関税を維持しつつ、無関税で輸入する特別枠を設ける形で合意を見たが、これは先進国として恥ずかしい。日本の農業技術をもってすれば、世界中の人が欲しがる安全でおいしい農産物を作れるはずなのに、コメ農家だけ関税で守るのは、「日本のコメは世界の競争に負けてしまうほど弱い」という途上国意識そのもの。安全でおいしい高付加価値のコメをつくってきた農家にとっては屈辱以外の何物でもないだろう。

今回のTPPによって、日本は途上国の商品やサービスを安く購入し、内需を喚起して途上国を富ませると共に、日本にしかつくれない高付加価値のものを生み出していくという、大国としての経済にシフトする覚悟を持たねばならない。(佳)

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