米国在住の易富賢という著名な人口学者がいる。易は、2023年3月10日付「ザ・ジャパン・タイムズ」に「中国の世紀は終わった──高齢化は、中国経済とその世界的野心の永遠の足かせとなるだろう──」(*1)という優れた論考を発表した。以下は、その一部抄訳である。
今年1月、中国では、同国の人口学者や国連が予想していたよりも9年早く、昨2022年から人口が減少に転じたことが正式に認められた。これは、中国の経済、外交、防衛政策のすべてが、誤った人口統計データに基づいていたことを意味する。
例えば、中国政府のエコノミストは、2049年までに中国の1人当たりのGDPは米国の半分か4分の3に達し、GDP全体は米国の2倍か3倍に成長すると予測していた。しかし、これらの予測は、2049年(建国100年)に中国の人口が米国の4倍になることを前提にしている。仮に中国が女性1人当たりの出生率を1.1人(昨年のデータ)で安定させることができたとしても、2049年の人口は米国の2.9倍に過ぎず、人口動態と経済活力のすべての主要指標が悪化する。
これらの誤った予測は、地政学的な「バタフライ効果」を暗示し、最終的には既存の世界秩序を崩壊させる可能性がある。
北京は、「東洋の台頭と西洋の衰退」という長年の信念に基づいて行動してきた。けれども少子高齢化は、中国経済にとって永久に大きな足かせとなるだろう。
高齢者扶養率(65歳以上の人口を15~64歳の人口で割った数字)はGDP成長率と強いマイナスの相関関係がある(年齢中央値や65歳以上人口の割合も同様である)。
1950年当時、日本の年齢中央値は21歳だったが、米国は29歳であった。その後、日本は経済成長を加速させる。日本の1人当たりGDPは、1960年に米国の16%だったが、1995年には154%となった。
中国を考えてみると、1980年当時、同国の年齢中央値は21歳と米国より8歳若く、1979年から2011年までのGDP成長率は年平均10%だった。ところが、2012年からは「働き盛りの労働力人口」が減少し、2015年にはGDP成長率が7%に減速し、2022年にはさらに3%まで鈍化している。
1962年から1990年までの年平均2340万人の出生数は、中国を「世界の工場」にした。けれども、中国自身が発表した公式数字でも、昨年の出生数は956万人に過ぎない。その結果、中国の製造業は衰退し続けている。
1975年には中国の人口はインドの1.5倍だった。だが、昨年の人口は中国政府の公式数字(14億1100万人)でも、インドの14億1700万人よりも少ない。実際には、インドの人口は10年前に中国を上回り、2050年には中国の約1.5倍となる見込みである。インドの年齢中央値は39歳と、中国の57歳より一世代若い。
2030年には、中国の年齢中央値はすでに米国を5.5歳上回り、2033年には高齢者扶養率が米国を上回り始めるだろう。中国のGDP成長率は2031─35年に米国を下回り始め、その時点で1人当たりGDPは米国の30%にも届かず、ましてや中国のエコノミストが予測する50─75%には到達しない。世界最大の経済大国である米国を中国ではなくインドが追い抜くだろう。
中国は高齢化による経済的な足かせを補うために、人工知能やロボット工学に多額の投資を行っている。しかし、このような取り組みが上手く機能するのは限られた範囲である。そもそも、ロボット労働者は消費しない。消費はあらゆる経済の主要な原動力である。
ただ、中国の衰退は緩やかで、今後、数十年間は世界第2位または第3位の経済大国であり続けるだろう。
実は、易富賢の論考を裏付けるデータが存在する(*2)。
中国では農村部の生徒数の減退や出生率の低下による学齢人口の大幅な減少により、小学校数が2012年の22万8600校から昨2022年の14万9100校と減った。つまり7万9500校(約35%)も少なくなっている。
一方、1963年から1975年にかけて毎年2000万人以上ベビーが生まれた世代が定年を迎える。だが、都市部労働者の基礎年金は激減している(*3)。2012年の積立金は18.5ヶ月分の給付を賄えるほどだった。ところが、2021年には11.2ヶ月となり、およそ10年間で約40%の縮小となった。中国の平均定年退職年齢は54歳だけれども、北京は近い将来、その年齢時期の引き上げを考慮せざるを得ないだろう。
(*1) 3月10日付「The Japan Times」記事
(*2) 4月4日付「中国瞭望」記事
(*3) 3月18日付「中国瞭望」記事
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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