《本記事のポイント》
- 高まる偶発的衝突のリスク
- 及び腰なアメリカの対応に疑心暗鬼に陥る台湾
- 中国の演習長期化でアメリカは二正面対応を強いられる
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
ペロシ氏の台湾訪問により、台湾危機のリスクは高まったと考えます。以下に、詳しく説明したいと思います。
偶発的衝突のリスクが高まった
中国はアメリカへの対抗措置として、これまで行ってきたアメリカ軍との電話協議や協議などを中止すると発表しました。両軍の意思疎通ができなくなれば、偶発的な衝突のリスクが高まります。今後、アメリカは偶発的衝突のリスクから、米軍の中国近海での行動を控えるようになるかもしれません。そうなればよりいっそう、台湾への介入や周辺の安全が脅かされることになるでしょう。
「第三次台湾危機」と比較して弱腰な対応をとったアメリカ
今回と比較されるのが、「第三次台湾危機」です。これは1996年に李登輝総統が進めた初の民主的な総統選挙に対して中国が反発したもので、中国は、台湾周辺海域に軍事演習区域を設定したあげく、台湾の南北に弾道ミサイルを撃ち込むという威嚇を行いました。
このときアメリカはそれぞれニミッツ、インディペンデンスという空母を中核とした2個空母艦隊、合計20隻程度を派遣しました。さらにニミッツ空母艦隊には、中国の眼と鼻の先である台湾海峡を通過させ、アメリカの強い意志を示しました。台湾を護るというアメリカの強力なメッセージで中国はトーンダウンし、台湾の総統選挙は無事に行われました。
今回の「第四次台湾危機」においても、アメリカは必ず台湾を護るというメッセージを与えて、台湾を安心させるべきだったのですが、ペロシ氏訪台は図らずも、アメリカの弱さを露呈させました。中国が台湾に軍事的な圧力をかける中、アメリカは空母ロナルド・レーガンを含めたわずか4隻の艦艇を派遣しただけだったからです。
しかも派遣前にインド洋にいた空母ロナルド・レーガンは、中国の息がかかった南シナ海の通過を避け、わざわざ遠回りして、台湾近海に派遣されています。加えて中国のミサイルを恐れたアメリカは、台湾海峡に空母を近づけさせず、台湾の東の太平洋上で、遠巻きに航行しただけで終わりました。
こうしたアメリカの対応は、1996年当時より、相対的にはるかにアメリカが弱くなってしまったこと、逆に言えば中国軍が比較にならないほど強くなったことを示す結果となりました。アメリカの弱さを中国が確信することは重大な問題です。中国はアメリカを恐れずに台湾侵攻が可能だと判断する可能性が高まるからです。
及び腰なアメリカの対応に疑心暗鬼に陥る台湾
アメリカ軍の及び腰な行動を見て、有事に際してもアメリカは本当に台湾防衛のために軍事介入するのか、台湾は疑心暗鬼に陥ったはずです。
もっとも重大なことは、ロシアが核兵器の使用をちらつかせることで、米軍およびNATOの直接的なウクライナへの介入を防ぐことができたという戦訓を中国がどう受けとめるかです。
おそらく中国は、台湾侵攻時に核恫喝が有効であると深く認識したのではないでしょうか。中国は近年、核ミサイルの大増強に取り組んでいますが、その目的は中国周辺地域の紛争に、アメリカの介入を阻止するためだとみられてきました。ウクライナ紛争は、その有効性を証明するかたちになってしまったといえます。
付け加えるならば台湾有事の際には、日本も中国から核恫喝を受ける可能性が高いと思われます。おそらく「台湾を救援するために自衛隊を派遣するなら、核ミサイルを撃ち込む」と恫喝されるでしょう。その時、日本政府がその脅しに屈せず、台湾を救援できるか、そして救援することもなく台湾が中国に併合されれば、次は間違いなく日本に歯牙がおよぶことを予期した上で、中国の核兵器に屈しない態勢を一刻も早く作らねばなりません。
台湾国内への負の影響
蔡英文総統の率いる民進党は、中国に強硬路線を維持しており、台湾国民も支持しています。しかしその対中敵視政策は、「アメリカが護ってくれる」という前提の上で成り立っています。今後、台湾国内でアメリカへの信用が低下する一方なら、台湾人にとって中国敵視は自らの命を縮める不安要素に変化する恐れがあります。
そうなれば民進党よりうまく中国と付き合える国民党への人気が高まりかねず、将来に国民党政権ができたなら、中国は戦わずして台湾統一を果たすことになるかもしれません。2021年9月、国民党主席に当選した朱立倫氏に対し、習近平氏は祝電を送っています。
今年の11月26日に、次期総統選の行方を占う台湾統一地方選が行われる予定ですが、中国はこれに合わせて、民進党の中国敵視の危険性を煽り、国民党が有利になるような介入を行ってくるのではないかと推測しています。
中国の演習長期化でアメリカは二正面対応を強いられる
中国は軍事演習の期間を8月4日から7日までの4日間と発表していました。しかし台湾国防部によると、8日には、39機の中国軍機の一部が台湾海峡の中間線を再び越えて飛来し、また台湾周辺海域では13隻の中国海軍艦艇が活動を続けています。
今後も断続的に高い緊張度の行動を続けることは容易に予想でき、アメリカは台湾への対応を強化する必要に迫られるでしょう。
一方のウクライナにおいては、7月7日にプーチン大統領はクレムリンで、「西側は我々を戦場で敗北させようとしているようだ。やってもらおうではないか」「しかし、我々はまだ何一つ本気を出していないと知るべきだ」と発言しており、プーチン氏は安易な停戦を求めていません。戦争は長期化する可能性が高いでしょう。
バイデン政権は、ウクライナと台湾の二正面対応を迫られる一方、40年ぶりの高インフレという経済危機に苦しんでいるため、二正面対応を嫌がるでしょう。
その結果、ロシアに戦力を集中するために、表面的には中国に強硬姿勢を見せつつも、水面下では中国へ経済面などで大幅に譲歩するという、最悪の選択をするのではないかと危惧しています。
台湾軍事侵攻の口実を与える結果に
現在の日米の安全保障専門家の間では、もはや台湾有事が起きるかどうかではなく、「いつ、どのようなかたちで台湾有事が起きるか」に議論の中心が移行しています。
2018年にアメリカ議会が制定した「台湾旅行法」は、アメリカ大統領を含む政府高官の台湾訪問を可能とするもので、その目的のなかに、「台湾有事が危惧されれば、大統領であっても台湾に訪問して総統と会見する」という強いカードをちらつかせることで、中国の軍事行動を抑制する機能が期待されていました。
しかしペロシ氏訪台によって著しく台湾との緊張が高まった今、今後のアメリカ高官の台湾訪問はたいへん難しい判断を要するものとなりました。
中国のレッドラインの一つである、「国内問題に対する外国勢力の介入」を刺激した結果、台湾への早期侵攻の可能性を高めるものとなったからです。中国外交部はペロシ訪台について、「中国の内政問題に著しく干渉し、一つの中国の原則を著しく踏みつけた」と批判しています。
以上を結論としてまとめれば、ペロシの台湾訪問は世界を混乱させた人災そのものであり、バイデン氏もペロシの訪台について「彼女の判断だ」と責任回避しているようでは、またしてもバイデン外交の恥の上塗りにしかなりません。今後も外交で手腕が発揮されることを期待するのは難しいでしょう。
日本は本来、このようにダッチロールするバイデン政権を諫め、リーダーシップを発揮することが期待されているはずです。日本が自立(Be independent)して、日本から善悪の価値観を明確に打ち出す強さ(Be strong)が生まれることが、未来への希望そのものだと考えます。
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の台湾問題などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ )。
【関連書籍】
いずれも幸福の科学出版 大川隆法著
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