《本記事のポイント》
- 第4次台湾危機を引き起こすペロシ下院議長の台湾訪問
- 中国の軍事演習区域の設定は事実上の海空封鎖
- 弾道ミサイル発射で米台日を恫喝
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
8月2日から3日にかけて、アメリカのナンシー・ペロシ下院議長を含む5人の民主党議員は、周りの反対を押し切って台湾を訪問しました。ペロシ氏の台湾訪問が極めて大きな中国の反発を引き起こした理由は、ペロシ氏の地位にあります。
下院議長であるペロシ氏は、大統領の職務遂行が不能となった時の継承順位が、副大統領の次に指定されている高官で、台湾を訪問した要職者としては最高位であったからです。つまり中国側からみれば、アメリカを代表して台湾を訪問したと見えるわけです。
第4次台湾危機を引き起こすペロシ下院議長の台湾訪問
このペロシ氏の訪問を、トランプ前大統領は、集会で「Crazy Nancy Perosi」(狂ったナンシー・ペロシ)と批判したほか、ソーシャルメディア「Truth Social」上でも、「なぜ狂ったナンシー・ペロシが台湾にいるのか?」「いつもトラブルを起こす。彼女のすることは何一つ良いことはない」("Why is Crazy Nancy Pelosi in Taiwan," "Always causing trouble. Nothing she does turns out well.")と、書き込みました。
トランプ氏の批判は、ペロシ氏の台湾訪問は、中国にエスカレートさせる口実を与えて、台湾の状況を悪化させるだけだ、というものですが、まさしくその通りの状況が起きています。
中国はペロシ訪台に猛烈に反発、台湾周辺空海域で軍事演習を始めました。1996年の台湾民主選挙に際して「第三次台湾危機」が起きましたが、今回は「第四次台湾危機」と呼ぶのがふさわしいと考えます。
中国の軍事演習区域の設定は事実上の海空封鎖
中国はペロシ氏の訪台に猛烈に反発し、台湾を取り囲むかたちで、6つの軍事演習区域を設定、8月4日から7日にかけて演習を行うとして同区域への海・空の進入禁止を公告しました。これは事実上の海上・航空封鎖であったと考えます。
しかも台湾を南北に挟んだ3箇所で、台湾の領海・領空が演習区域に含まれており、これは台湾への明白な主権侵害です。中国は軍事演習区域の一方的な設定を通じて、「台湾は中国の一部なので、その主権は中国に属しており、海上と航空の通過も中国当局の許可なしには許されない」というメッセージを送ったことになります。
現実に、各民間航空会社の台湾を離発着する国際便の全てで、飛行経路上に演習区域を含むため、多数の便がキャンセルになり、また飛行経路を大きく迂回せざるを得なくなりました。下記は一例ですが、台湾発名古屋行きの民航機(2022.8.5)をモニターしたところ、演習区域を避けるルートを飛行していました。
画像:Flightradar24のWebサイトより。
今回は演習区域のみが飛行禁止だったので、迂回が可能でしたが、中国の示したことは、「その気になれば台湾の海空を完全に封鎖する」という脅迫そのものであったといえます。
弾道ミサイル発射で米台日を恫喝
中国軍は8月4日、大規模演習を開始し、台湾の南北および東方海上の演習区域に向けて、11発の弾道ミサイルを発射しました。
これらのミサイルは、有事には多量の弾道ミサイルで台湾を攻撃するという恫喝であることは明らかですが、加えて、台湾に介入しようとする米軍や自衛隊への威嚇でもありました。
日本政府は9発の発射を確認しています(残りの2発は遠方で日本のレーダーには映らなかったと推定される)。そのうち5発は与那国島の南、約120km付近に着弾させており、有事には与那国島にある陸上自衛隊の警戒監視部隊(レーダー)や、宮古、石垣等の対艦ミサイル部隊を先制攻撃するというメッセージとも受け止められるものです。
なお中国のCCTVは、8月4日に発射した弾道ミサイルとしてDF-15Bの発射シーンの動画を公表していますが、このミサイルは着弾間際で機動が可能なため、ミサイル防衛を行うPAC-3の迎撃が困難になるとみられます。
(後編に続く)
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の台湾問題などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。
【関連書籍】
いずれも幸福の科学出版 大川隆法著
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