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2018年6月号記事
映画が世界を動かす
米中シネマ覇権戦争
「20世紀最大の発明」と評される映画をめぐり、米中がしのぎを削っている。映画を観れば、国際政治の今が分かる。
(編集部 山本慧)
中国がハリウッドを爆買い
- 2015年
- 中国映画会社華誼兄弟伝媒が、米映画会社STXエンターテイメントと提携
- 2016年
- 中国の大連万達集団が、米映画会社レジェンダリー・エンターテインメントを買収
米映画会社ユニバーサル・スタジオが中国映画会社の完美環球娯楽と提携
アメリカ最大の輸出産業は何か―。自動車、飛行機? いずれも不正解。実は、文化・娯楽である。その筆頭がハリウッド映画だ(*)。
現在、トランプ米大統領が中国に「貿易戦争」を仕掛けている理由は、中国による知的財産権の侵害を防ぎ、ハリウッドの利益を守るためでもある。
中国では、映画の海賊版がタダ同然で流通している。アメリカは長年、是正を要求し、中国の映画市場も閉鎖的であると指摘してきた。
一方、ハリウッドの戦争映画が好きな習近平・中国国家主席は、アメリカに対抗できる「社会主義文化強国」を掲げ、映画産業の育成を重要視。国内では、外国映画の年間上映本数を34本に制限し、検閲するなどしてアメリカの"洗脳"を防ぎつつ、逆にハリウッドの制作会社などを爆買いし、外国の技術を習得している(上表)。
爆買いのトップランナーは、大連万達集団を率いる中国最大の富豪、王健林氏。王氏は、「GODZILLA ゴジラ」や「ジュラシック・ワールド」を制作したレジェンダリー・エンターテインメントを2016年に買収し、打倒ハリウッドを目指す。
今年1月~3月期で、中国映画の興行収入は世界一となり、ハリウッドとしても魅力的なマーケット。SF怪獣映画「パシフィック・リム」のように、アメリカでの興行収入が不振でも、中国でヒットすれば、続編が作られるケースも出てきた。
また、ハリウッドも中国政府に配慮し始めた。「レッド・ドーン」「ワールド・ウォーZ」「トランスフォーマー ロストエイジ」「オデッセイ」などは、中国に不都合なシーンを修正、または中国のイメージアップに貢献した作品と評される。
米中の駆け引きについて、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティのレクチャラー(講師)として洋画作品研究を教える田中司氏はこう語る。
「かつて、ローマ帝国はパンとサーカスを使ってローマ市民を支配しました。アメリカはマクドナルドとハリウッドで、自国の価値観を世界に浸透させている」
そこで今回、米中のシネマ覇権戦争を切り口に、映画が世界を動かす実態を探った。
(*)1999年の国連人権開発報告書には、「アメリカの最大かつ唯一の輸出産業は航空機でもコンピューターでもなく、文化・娯楽である。映画とテレビ番組を世界中に輸出している」とある。
中国のヒーローが映画化?
「スパイダーマン」(2002年)
アメリカンコミックスの代表作。クモのように飛び回る主人公が、世界を救うヒーロー物語。
「インデペンデンス・デイ」(1996年)
地球を侵略してきた宇宙人の母艦に核爆弾をセットし、人類を救う。その後に公開された「アルマゲドン」(98年)も、核兵器の使用を肯定した。
ハリウッドの代名詞と言えば、アメリカンコミックス(アメコミ)に登場するスーパーヒーローである。
アイアンマン、キャプテン・アメリカ、マイティ・ソー、アベンジャーズなど、数多くのヒーローが映画化された。
これらを手掛けるマーベル・シネマティック・ユニバースは、計19作を製作し、最速で全世界興行収入1兆円を突破。ヒーローブームを巻き起こし、今年もすでに2作を上映した。
ブームのはしりとなった「スパイダーマン」は、典型的な勧善懲悪の作品だ。主人公のピーターは、さえない白人男性で、体つきは華奢な草食系。どこにでもいそうな人物が、未知の力を手に入れて人々を救うも、その責任の重さに葛藤。そしてピーターは、「大いなる力には大いなる責任が伴う」という高貴なる義務に目覚め、成長する―。
アメリカはこうしたアメコミヒーローを通じて、"英雄なき現代"に勇気を与えている。
中国も、ドル箱であるスーパーヒーローに接近している。
多数のヒーローコミックを持つマーベル・エンターテインメントは今年、中国生まれのヒーロー「スウォードマスター」と「エアロ」を作品に加えることを発表した。今後、中国人ヒーローが映画化される可能性も出てきた。
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