《本記事のポイント》
- 人工知能の開発や利用が、日々進んでいる
- AIは「仕事を奪う」派と「仕事をつくる」派の両方が存在する
- 「新たな産業をつくる」未来は実現できる
最近、新聞やテレビなどで、人工知能(AI)が連日のように取り上げられている。
例えば、24日付読売新聞は、AIを用いて観光地の渋滞を緩和する実験を、国土交通省が今秋から始めると報じた。街頭カメラなどで集めたデータから、渋滞を予測するという。また同日の日経新聞は、米ウォルマート社と米グーグル社が提携し、AIを搭載したスピーカーなどで簡単に商品を注文できるようにすると報じている。
その他にも、8月上旬には、中国のIT大手「騰訊(テンセント)」社と米マイクロソフト社が、ネット上でユーザーと会話できるAIを開発し、このAIが、中国当局が度肝を抜くような発言をしたと話題になった。
例えば、あるユーザーが「共産党万歳!」と書き込むと、「こんなに腐敗して無能な政党なのに、それでも万歳なんて言えるの?」と発言。「民主って、いいもの?」と書き込むと、「絶対に民主でなければならない!」と発言するといった具合だ(7日付ニューズウィーク電子版)。
当然、中国当局はこのAIサービスを閉鎖した。これは傍から見れば笑い話にしか過ぎないが、今後、AIが人間や社会に大きな影響を及ぼすことになるのは、明らかである。
「仕事を奪う」という悲観論と「新たな仕事を生む」という楽観論
AIについての最も重要な論争の一つが、「AIの進歩は、人の仕事を奪うだけなのか、それとも、新たな仕事を生むのか」というものだ。
シリコンバレーの起業家マーティン・フォード氏は、「技術の進歩が加速し自動化が進めば、必要とされる人間は少なくなる。ブルーワーカー、ホワイトカラーを問わず仕事は消滅し、労働者階級、中間層の家庭は苦境に立たされることになる」という主旨の主張をしている(著書『ロボットの脅威』)。
このように、「AIロボットは人の仕事を奪う。人々の仕事が減れば所得も減り、消費も減るため、経済全体が衰退する」と悲観的に考える人は多い。
一方、「AIロボットは人の仕事を奪うが、新たな産業や富を生み、それがまた新たな雇用を生む」と楽観的に考える人もいる。
米マサチューセッツ工科大学の伊藤穣一氏は、22日付日経新聞のインタビューに対し、こう語っている。
「ある種の職種は必ずなくなる。でもそういう現象は過去にもあり、その度に新しい仕事も生まれている。AIは単純な労働の置き換えではなく、人間の働き方自体を変える。今の教育はいわれたことをきちっとこなす、お利口さんをつくろうとしているが、そういう人材はロボットで済んでしまう。人間にはもっと創造的で、快活で、気まぐれな要素が求められる」
人間に与えられている創造力の開花を
19世紀前半、蒸気機関車が開発されると、馬車がなくなり、馬乗りは失業した。だが、鉄道の開通によって移動時間が減り、都市開発も進み、経済は成長した。もし、鉄道を開通しただけで新たな仕事をつくろうとしなかったら、馬乗りが失業しただけで終わっていただろう。
科学技術は価値中立なものであって、人間や社会にどう影響を与えるかは、その技術を使う人次第だ。AIの導入が「人間の労働を代替する」だけに終わるのか、それとも「新たな産業を生む」のか。それは人間次第でどちらも起こりうるだろう。
人間には、神から「創造力」が与えられている。その創造力こそが、これまでにないものを創り出し、文明を発展させる力の源だ。そして創造力の裏にあるものとは、「世の中の人々に、もっと喜んでもらえるものを創り出したい」という感謝・報恩の気持ちだ。
その創造性を開花させられれば、「AIの進歩に伴い、なくなった仕事を超えるスケールの新しい産業を創りだす」というより発展的な未来を実現させることは、可能なはずだ。
(山本泉)
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