中国政府は今年に入ってから、経済的な罪を犯した海外への中国人逃亡者150人を、32カ国から連れ戻したことを、このほど中国紙チャイナデイリー(ネット版)が報じた。

中国政府は今年、「スカイ・ネット(Sky Net)」という摘発計画を実行。アメリカやカナダを含む多くの国々に逃げた犯罪者を、中国へ強制送還することに成功している。(ちなみに、Sky Netとは、映画「ターミネーター」に出てくる、人類の殲滅を目論む人工知能。「政府が見ている」という意味で、高度な技術力を背景にした監視社会を指して使われることもある)

記事によると、中国は世界39カ国と犯罪者引渡し条約を結び、91カ国と何らかの犯罪者摘発のための協力関係を結んでいる。そのため、汚職や不正利得などで国外逃亡した者たちは、主に、中国と引渡し条約を結んでいないアメリカやカナダなどへと逃げている。中国政府が公表した逃亡者トップ100人の内、40人がアメリカに逃げ込んでいるという。

しかし、アメリカやカナダは、中国国内の法の遵守や、送り返された者の法的権利が守られるかどうかが分からないため、強制送還に消極的だ。

では、引渡し条約がないのに、中国はどのように海外への逃亡者を捕らえるのか。

実は、中国側は相手国の法律を使って逃亡者を捕らえている。例えば、逃亡者が違法な手段で入国したことを、その国に告げ、訴訟を起こして強制送還させるなどのやり方だ。このような方法で、中国は2014年の後半だけで、680人もの逃亡者を捕らえたと言われている。

確かに、犯罪者を野放しにしておくわけにはいかない。汚職や不正を犯したのであれば、それ相応の罪に問われてしかるべきだろう。しかし、逃亡者を追跡する計画も、習氏の「腐敗撲滅キャンペーン」の一部であり、それ自体が習政権の宣伝や、政敵を排除するための名目に過ぎないとも言われている。

また、中国の裁判が公平・公正に行われているとは思えないし、発表の内容を鵜呑みにできない。そもそも、海外から連れ戻されている"逃亡者"が、実は単に中国政府を批判しただけの民主化を求める運動家などの可能性はないのだろうか。ノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏のような人物が、捕らえられている可能性もあるだろう。

問題の根幹は、中国が「法の支配」ではない独裁国家であるということだ。中国が民主的な法治国家であれば、逃亡者を引き渡しても「人権が守られる形で、公正に裁かれるだろう」と信頼でき、引渡しによる強制送還に正当性もある。

中国政府は、自分たちが国内で行っている圧政・人権弾圧こそが、より大きな悪であることを理解すべきだ。(中)

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