米連邦通信委員会(FCC)がこのほど、ネットワーク中立性(Net Neutrality)を義務付ける意向を表明したことで、物議を醸している。

ネットワーク中立性とは、「インターネット上に存在する全てのデータを平等に扱うべき」という考えだ。

これまで、アメリカのインターネット接続会社(ISP)は、使用者、サイトの内容、場所、プラットフォーム(パソコンか携帯かなど)によって、インターネットの接続速度を変えることができた。例えば、ネットゲームやソーシャル・ネットワーク系のサイトのアクセス速度をわざと遅くして、他のサイトへの接続速度を速くすることができるのだ。

接続会社側も、一秒間に通信できるデータの量が限られているため、特別料金を払うサイトのアクセスを速くしたり、社会的に優先度が高いサービス(医療、警察など)を優先させたりする。

今回のFCCの判断は、このようなやり方を違法にし、全てのデータを中立に扱い、特定のサイトやサービスを優遇してはいけないとした。

ネットワーク中立性を擁護する人は、次のように主張する。

  • 田舎に住んでいる者や貧困層が多い地域はISPに冷遇されており、インターネットの接続速度も遅い。
  • ISPが競争相手のサイトをブロックしたり、特別料金を払う企業へのアクセスを優先させることができる。このため、中小企業や新しく起業した会社は不利な立場に置かれる。
  • 接続会社が自分たちの利益のために、インターネット上での自由な情報交換を阻害する恐れがある。

ネットワーク中立性に反対する立場を取る人からは、以下のような声が上がっている。

  • 顧客の貧富の差によってサービスの質が変わるという懸念は現実的ではなく、実際にそのような現象は見受けられない。
  • 映画やファイル交換サービスなどを提供するサイトは、大量のデータ通信を必要とする。そのため、それらの企業はISPに対して、データ量に比例した料金を支払うべきである。
  • 全ての接続サービスの質を同じにしてしまえば、ISPの間で、サービスの質の差がなくなり、サービス向上のためのイノベーションや競争がなくなってしまう。
  • 政府が、インターネットのように自由な情報交換の場に規制を設けるような前例ができれば、将来的に、さらに多くの情報規制が課せられる可能性がある。

これら以外にも多くの論点が存在するが、基本的に、一方はISPが特定の顧客に不利になるようなサービスを提供する可能性があるとし、もう一方は「大きな政府」がインターネットの自由性を阻害する恐れがあるとした。

確かに企業が顧客に不利となるサービスを提供することは好ましくない。しかし、そのような企業は自由市場の中では淘汰されていくのが資本主義の原理の一つだ。逆に、「大きな政府」が「どの様な企業サービスが正しいか」を一律に決めるのは社会主義や全体主義への第一歩であり、サービス全体の悪化にもつながるだろう。

やはり、民間のイノベーションや競争で解決できる問題は、民間に任せるべきではないだろうか。(中)

【関連記事】

2015年1月24日本欄 ヤマトがメール便を廃止 信書の規制は誰のため?

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9120

2015年1月5日本欄 【そもそも解説】「大きな政府」「小さな政府」って何?

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9013

2015年1月号記事 実は「自由」でない日本―「自由の大国」を目指して(Webバージョン) - 編集長コラム

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9134