軍事研究をめぐる報道で揺れる東京大学。

東京大学がこれまで禁じてきた軍事研究を解禁したことを、一部の大手紙が報じたが、直後にそれを否定する報道がなされるなど、情報が錯綜している。真偽のほどは定かではないが、いずれにしても、日本の大学が軍事研究を避けるカルチャーは、逆に、国民を危機にさらす危険性がある。

産経新聞は16日付朝刊1面のトップ記事で、「東大、軍事研究を解禁」と大々的に見出しを立て、昨年12月に東大がガイドラインを改訂し、「軍事・平和利用の両義性を深く意識し、研究を進める」と明記した上で、軍民両用技術の研究を容認した、と伝えた。

また、読売新聞は16日付夕刊3面で、「東大 軍事研究に道」という見出しで、東大が軍事研究の禁止を定めた指針を見直した、と報じた。産経新聞の記事を追いかけた内容だ。

しかし、朝日新聞は翌17日付朝刊社会面で、「『軍事研究の解禁』 東大が打ち消し」として、産経や読売の記事を念頭に、東大側が「報道内容が間違っている」と否定したことを報じた。

この問題について、東京大学のホームページには、濱田純一総長のコメントが発表されている。だが、「学術における軍事研究の禁止は(中略)東京大学の教育研究のもっとも重要な基本原則の一つである」とする一方、「軍事研究の意味合いは曖昧であり……」などとしており、明確に「やる」のか「やらない」のか分からない文面だ。

確かに、どこからが軍事研究で、どこからがそうでない研究か、という線引きは難しい。しかし、今回の東大の軍事研究に関する情報の錯綜ぶりは、日本の「軍事アレルギー」を象徴している。国民を守るために、大学が軍事研究をして何が悪いのか。日本で「軍事学」を教える大学は、防衛大学をのぞけば皆無だが、むしろ、そうした状況をこそ恐れるべきだろう。

軍事学は、代表的な戦略・戦術の他にも、兵器を扱う工学系や医学、心理学や地政学、戦史学や法学など分野が広い。しかし、こうしたことを国民が学んでいなければ、知識の集積が行われず、万が一、戦争が起こった時に国民はパニックに陥るだろう。

日本では戦争を絶対悪として、「どうすれば日本が戦争を起こさないか」を考え続けてきたが、軍拡を続ける中国や北朝鮮が存在する以上、「他国から戦争を仕掛けられたらどうするか」を考えなければならない。もちろん、それに対する具体的な「備え」も必要だ。

日本人は、そろそろ「軍事は人を殺すもの」という発想から、「軍事は人を守るもの」という発想にシフトして、軍事研究を進めるべきである。(居/格)

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