2015年10月に消費税率を予定通り10%に引き上げるか否かをめぐり、先送り論が有力視されている。引き上げの決定権を握る安倍晋三首相が「今の状況で再増税を決めるのは難しい」と周囲に漏らしているためだ(14日付日経新聞)。
4月の消費増税後、日本経済の景気後退感は鮮明になっている。4-6月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算で前期比7.1%減となり、1997年の消費税率5%への引き上げ後や、東日本大震災の直後を上回る落ち込みとなった。また、実質賃金指数は15カ月連続で減少。消費増税による"強制的な"物価上昇を前に、国民が豊かになるどころかむしろ貧しくなっているのが実情だ。
そもそも「消費税増税法」のルーツは、菅直人氏が首相を務めていた10年6月にさかのぼる。ギリシャ債務危機が取り沙汰されるなか、財務省関係者が「GDPの2倍近くの債務残高を抱える日本も二の舞になりかねない」と説得。菅氏は「消費税10%」を打ち出したが、その直後の参院選で惨敗している。だが、同法案は続く野田佳彦政権に受け継がれ、12年6月の自民・公明両党との「三党合意」を経て、同年8月、成立した。
実は自民党も10年の参院選で「当面10%」を掲げており、12年の衆院選に向けたマニフェストの中でも改めて明記していた。自民と民主は当初から足並みを揃えていたのだ。こうした動きに対し、マスコミから目立った批判は出なかった。本来、「権力のチェック機能」とされるマスコミがその役割を果たせていなかったということだ。
それどころか、「三党合意」後の各マスコミの反応はどうだったか。「合意の内容は満点に近い」と評した朝日を含め、主要5紙が賛意を示していた。ところが今になって一転、その大半が増税先送り支持に転向。彼らが自分たちの「先見性のなさ」を反省しているようには見えない。さらには、導入が検討されている「軽減税率」の対象に新聞・雑誌などを含めるよう主張している。国民を大きくミスリードしておいて自分たちの利益だけは守ろうとする資格は果たしてあるのかどうか、大いに疑問だ。
「三党合意」に自民党総裁として参加した谷垣禎一氏は現在、同党の幹事長として来月実施の公算が高まっている衆院選に突入する構え。当時、野田内閣は「政治生命をかける」として増税法案の成立に全力を注いだが、現与党の自民・公明もそうした意気込みを持っていたはずだ。にも関わらず、消費増税が間違いであることが事実上証明され、その先送りの可否を問う選挙戦を前に涼しい顔をし、増税先送りを「勇断」したかのように国民にアピールして票を得ようというのは、政治家の信念に照らして恥ずかしくないのだろうか。
また、財政危機ばかり訴える財務省にも責任がある。財政再建のためにしきりに消費増税を訴えるが、ほんの25年前までは消費税なるものはなかった。「なくても発展した」し、今よりも財政赤字は少なかった。むしろ消費税導入後、日本経済が20年を超える長いデフレに陥り、政府の税収が減って財政赤字拡大の原因になったと言える。財務省は自らの非を認め責任をとってしかるべきだ。
結局、政治家、財務省、マスコミは国民に対する謝罪の言葉すら言えず、それぞれがお互いのせいにし、誰も責任をとらない構図が見て取れる。これは、国民が自分たちに「お金を払ってくれる」のが当たり前と考えているところに、根本的な間違いがある。「出資者には必ず成果でお返しする」「経営は真剣勝負」という企業家精神に学び実践することが、国家に直接奉仕する人々にも求められる。(翼)
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