環太平洋経済連携協定(TPP)の妥結を目指す各国の閣僚会合が、オーストラリアのシドニーでこのほど行われ、大きな成果がなく閉幕した。いまだに日米の対立の溝は深く、年内の交渉妥結は厳しい情勢になった。

これまでの交渉では、日本側が農業分野を守りたい一方、米側は自動車産業を守りたい思惑があり、両国の妥協点が見出せなくなっている。日米が硬直化する中、マレーシアのムスタパ貿易産業相が、「農産品市場をもっと開放してほしい」と日本側に持ちかけるなど、他の交渉国の対応にも影響を及ぼし始めている。

日米が妥協できない背景には、厳しい国内事情が関係する。日本では、輸出産業や企業の賃上げが思うように伸びず、4~6月期GDPが7.1%(前期比年率換算)のマイナス成長を記録するなど、アベノミクス効果が限定的であったことが判明。TPP交渉で譲歩すれば、経済へのさらなる打撃や、農業団体の票が失われることが懸念される。オバマ米大統領も、外交の失敗が相次ぎ、11月4日に行われる中間選挙で敗北する公算が高い。

しかし、TPPはもともと、安倍晋三首相が4月12日に、「安全保障上の大きな意義がある」と語ったように、その本質は、「中国包囲網」の構築であったはず。だが、現実の交渉では、安全保障のメッセージ性は後退し、貿易面ばかり強調され過ぎている。両国の首脳が、国内事情を打破するために、目先の利益に固執すれば、中国に対する安保体制の強化が遅れることになる。

TPP交渉が難航する裏では、中国が、自国を中心にした経済圏をつくろうと画策。先週、中国の北京で開かれた国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の設立をめぐる会合では、東南アジア諸国を含む21カ国の代表が集まった。日本が参加を表明している、2015年末の妥結を目指す東アジア包括的経済連携(RCEP)でも、中国は、交渉の主導権を握ろうと狙っていると言われている。

経済的利益に左右されている日米両国は、「中国包囲網」というTPPの原点に立ち返るべきだ。その点、日本が多少の譲歩をしたとしても、得られる安全保障上の利益は大きい。(山本慧)

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