韓国とアメリカの国防大臣がこのほど、韓国の戦時作戦統制権の移管を、2020年代半ばまで再延期することで合意した。

戦時作戦統制権とは、有事の際に軍隊の作戦指揮をとる権限のことで、朝鮮戦争時に韓国を支援した国連軍に移され、1978年にアメリカが継承していた。盧武鉉政権は、「自主防衛」を掲げて権限の返還を求め、アメリカ側も、米韓同盟を軽視する韓国の態度や米軍の削減につながるなどの理由から、2007年に合意。だが、北朝鮮の核実験が現実的な脅威となったことで、問題提起した側の李明博政権・朴槿惠政権が先送りを望んだ格好となった。

今回の合意には、アメリカからの意向で、北朝鮮のミサイル基地を探知・破壊する「キルチェーン(先制打撃システム)」と、発射されたミサイルの防衛「KAMD(韓国ミサイル防衛計画)」の構築など、ミサイル防衛力を高める項目が盛り込まれている。これに対し、韓国は以前より、それらを整備する費用だけで、約1兆7000億円掛かるとして、難色を示している。移管の先送りには合意したものの、韓国がアメリカの要望を聞き入れるかは不透明だ。

しかし、条件を呑まない理由は他にもある。それは中国の存在だ。

中国は、アメリカが主導するミサイル防衛網の構築が、「自国に向けたもの」として、かねてより反対している。一方、朴大統領は、「朝鮮半島の統一」を掲げているために、中国の機嫌を損ねたくない。故に、韓国は、警戒すべき中国と同盟国アメリカを天秤にかけ、どちらからも「実利」を引き出そうとしている。だが、実際は、中国の意のままに操られており、国益を損ねているだけだ。アメリカ側からは、米韓同盟を打ち切るべきとの意見もある。

そもそも、盧武鉉政権は「自主防衛」を掲げたものの、国防費を増やしてミサイル防衛などを整備するといった、国民を独力で守り切るという姿勢は見られなかった。この対応は、北朝鮮が反発しないようにした融和政策の一つであって、結局は、北朝鮮の核開発を座視してしまい、国民の生命を脅かされる「亡国の決断」をしたと言える。

米韓同盟が弱体化しかねない統制権の移管が見送られたことは、一定の評価ができる。しかし、その韓国は、北朝鮮や中国の脅威を十分に認識しているとは言い難い。合意が骨抜きにならぬように、両国を見据えた国防力を高めるべきだ。(山本慧)

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