中国国内で、プーチン露大統領に関する本が飛ぶように売れている。そのうちの1冊、『プーチン伝:ロシアのために生まれた男』が、9月の北京新聞のノンフィクション・ベストセラーでトップ10入りを果たしたと、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(2日付日本版)が伝えた。プーチン氏と習近平・中国国家主席が「似ている」ことが主な理由という。

ウクライナ問題で強硬姿勢を取り、国内では80%前後の支持率を背景に高い指導力を発揮するプーチン氏。一方、軍事的圧力を背景に東シナ海、南シナ海での領有権争いを過熱させ、国内では毎年8%近い経済成長率を続け、共産党員の腐敗撲滅運動にいそしむ習氏。

現在、両氏の年齢はともに61歳で、会談の回数は就任以来、計9回にのぼる。中国国民は、プーチン氏を「プーチン大帝」と好んで呼ぶそうだが、どうやら「自国の国益を守る力強いリーダー」として、習氏と重ね合わせて見ているようだ。

両国の関係を考えてみても、中国国民はロシアに大いに親近感を感じているのだろう。まず、ウクライナ問題をめぐって欧米諸国による制裁が激しさを増すなか、中国の市場と資本を頼りたいロシアと、反対にロシアを重要な資源提供国としたい中国の間での思惑の一致がある。実際、今年5月にはロシアが今後30年にわたり中国に4000億ドル(約43兆5000億円)相当の天然ガスを供与することや、港湾の共同開発で合意している。

国際舞台で、両国が歩調を合わせることが多々あるという点も影響している。シリア情勢に関する決議案では、他の13理事国すべてが賛成するなか、国連の常任理事国でもある両国は同時に合計4度も拒否権を発動した。また、現在行われている「イスラム国」への空爆に関しても、米国をはじめとする「有志連合」による空爆が、「シリアのアサド政権の許可を得ていない」として、「国際法違反」との見解で一致している。

こうしてみると、プーチン氏と習氏、およびロシアと中国はお互いに主張が似ていて、意気投合しているように見える。しかし、その本質において本当に「似ている」のか。

プーチン氏はロシア正教会を積極的に擁護し、「信教の自由」を認めている。「言論の自由」に関しても、ソ連崩壊以後、次第に認めつつある。さらに、3月のウクライナ問題勃発時には、暴動により民主的な選挙を経ずに発足したウクライナ暫定政府を「非合法」と批判した。これは氏に民主主義を奉じる精神がなければできない批判だ。

だが、習氏は無神論、唯物論を標榜し、キリスト教会を弾圧するなど、「信教の自由」を認めていない。それに限らず、人権活動家を多数拘束して「言論の自由」を奪い、ウイグルやチベットの人々への苛烈な異民族弾圧を続けている。「知る権利」を妨害されている中国国民の多くは、こうした実態を知らされないでいる。

国体を大きく方向づける自由や民主主義という観点でみても、両者の考え方はこれだけ違う。こうした違いを裏付けるように、ロシアは12年に発表した国家戦略の基本文書「戦略2020」の中で、「ロシアにとって主な危険は、中国の経済的潜在力と国際的地位の増大に起因している」と、中国の脅威に触れている。

結局、ロシアと中国は、指導者の面でも国家戦略の面でも決して似ていない。だが、プーチン氏を持ち上げる中国の宣伝工作が、結果的にロシアと中国を結びつけ、「冷戦構造の復活」や欧米諸国の誤解を生むことは断じて避けなければならない。と同時に、中国の軍事的脅威にさらされている日本は、ロシアとの関係の重要性を再度自覚し、欧米諸国とロシアの間に入って、緊密な連携を取り続けていく必要がある。(翼)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『プーチン大統領の新・守護霊メッセージ』 大川隆法著

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幸福の科学出版 『中国と習近平に未来はあるか』 大川隆法著

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