中国で、政府高官が自殺する事件が相次いでいる。米メディアの報道によると、今年に入ってから、国営企業の経営者を含めた30人がすでに命を絶ったという。習近平・国家主席は賄賂などの汚職を撲滅するキャンペーンに血道を上げており、追及の手を逃れるために死を選ぶケースも後を絶たない。

しかし、贈収賄には受け手と送り手とがいる。受け手の官僚だけでなく、賄賂を贈る側の民間の方にも、"汚職撲滅作戦"の影響は及んでいる。温州ではここ半年だけで、80人を超える実業家が自殺したという。

中国は、共産党による一党独裁の政治制度を残したまま、経済のみの自由化を目指してきた。だがそうした政策のアンバランスが、いつまでも減らない汚職の構造を生んでいるという指摘もある。米ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、17日付の社説で次のように論じている。

「(中国で)財産の所有権が脆弱で、官僚に自由な権限が与えられているということは、経営者にとって会社を取り上げられる可能性があることを意味する。身を守る唯一の道は、共産党の指導層との関係を築いておくことだが、それは贈収賄の罪に問われる危険もはらんでいる」

いつ会社を没収されたり逮捕されたりするか分からない状況では、安心してビジネスをすることなどできない。その結果、海外に逃げ出す実業家らが増えていくことになる。英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによれば、150万ドル以上の資産を持つ中国人のうち、5年以内の海外移住を考えている人の割合は47%にのぼるという(バークレー調べ)。他は、シンガポール23%、イギリス20%、アメリカ6%、インド5%で、中国が突出している。

「未来の成功者」も同様だ。WSJは中国国営・新華社通信の報道を引きながら、海外留学してそのまま母国に戻らなかった中国人留学生は、2012年に7万人に達したと紹介している。

習政権が、国内の汚職を本当になくしたいと考えているならば、財産権などの商取引や経営に関わる権利を認める政治改革にまで踏み込む必要があるだろう。そうでなければ、汚職対策は対症療法に終わり、汚職を生んでいる経済の構図まで変えることはできない。

元最高指導部メンバーの周永康氏の立件など、習政権の汚職撲滅キャンペーンは権力基盤の強化の意味合いもある。汚職退治がパフォーマンスばかりで、本格的な経済の自由化に手を付けないのであれば、中国経済の将来性はますます失われていくことになる。

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2014年7月30日付本欄 中国は絵に描いたような「独裁国家」に? 元最高指導部・周永康氏が失脚

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2009年12月号記事 【60年目の中国】

http://the-liberty.com/article.php?item_id=934