日米など12カ国が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の首席会合が、12日から行われている。「知的財産」分野では、映画や音楽などの著作権の保護期間が最大の論点の一つとなっていたが、「作家や著者の死後70年」とするアメリカの主張へ収れんしてきている。難航していたこの分野で交渉を進展させられれば、TPP交渉全体に弾みがつくことが期待される。

TPPには「中国包囲網」としての意味合いがあるが、知的財産権でのルールづくりも、中国への牽制となる。中国で知的財産権の侵害が多発していることが、かねてから国際的な問題となっているからだ。以前、北京市内の国立遊園地がディズニーのキャラクターなどに酷似したぬいぐるみを使い、それが著作権侵害にあたるとして、ウォルト・ディズニー社が北京市版権(著作権)局に通報したという事例もある。 仮に将来、中国がTPP参加を真剣に検討する場合には、この分野でも国内の改革が迫られるのは必至だ。

中国は「国内での情報統制」と「知的財産制度への無理解」という二つの意味において、グローバル社会への参加条件を満たしていない。情報統制によって、中国の国内経済は世界のトレンドから取り残されることになるし、企業も育たない。知的財産制度を理解しないことは、「技術貿易」などにおける「中国外し」を招くことになるだろう。

知的財産権のルールを守らなければ、国際的な「知識の貿易」に加わることができず、中国は世界の最先端からどんどんと遅れを取ることになる。2011年のデータでは、アメリカが海外から稼いでいる特許と著作権の使用料は、合わせて約9.6兆円とされており、日本の製薬産業の売上高に匹敵する規模である。経営学者のピーター・ドラッカーは著書『断絶の時代』の中で、「新産業は知識に基礎を置く」と説き、知識は重要な資源であると指摘している。そして、「今後伸びる貿易は商品貿易ではなく技術貿易、すなわち特許やライセンスの貿易である」と予言している。そもそも「知識」の売買の前提として「知的財産権」が認められなければならないが、中国はこのことを理解できるだろうか。

また、ドラッカーは同書において、同一の情報圏は同一の経済圏を持ち、世界にわたる情報の爆発が経済のグローバル化を進展させているが、そのグローバル経済においては、まだ制度たるものが整備されていないとしている。現在、話が進められているTPP交渉は、グローバル経済における「ルール」づくりの役割を果たしていると言える。

経済成長の減速に加えて、知識社会の到来と経済のグローバル化は、中国経済に大きな課題を突き付けていると言えよう。中国に自由主義経済へ向けた改革をさらに迫るべく、日本はTPP妥結に向けてリーダーシップを発揮していく必要がある。

(HS政経塾 西邑拓真)

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