中国が尖閣諸島への野心をむき出しにしている。北京で開催中の全人代に合わせた記者会見で、中国の王毅外相は、尖閣諸島を念頭に「領土の問題では妥協の余地はない」と述べて日本をけん制した。
この尖閣諸島の問題について、このほどカリフォルニア州サンディエゴで行われたシンポジウムにおいて、「中国の人民解放軍は、尖閣諸島を占領する訓練を行った」と米海軍・太平洋艦隊のジェイムズ・ファネル大佐が報告した。

同氏は、中国の軍事演習について、「これまでは台湾上陸侵攻の訓練だったが、東シナ海にある日本の島嶼への上陸侵攻も含めた訓練に拡大している」と指摘。13年秋の人民解放軍の演習の分析から、「人民解放軍は、局地戦で日本の自衛隊を破り、尖閣諸島や琉球諸島南部を強奪するという新しい任務が与えられている」と結論付けた。

中国は近年、領海・領空侵犯、防空識別区の設定を重ね、尖閣諸島を「領土問題」に格上げしようとしている。その先の「占領」も国家目標であることが改めて明らかになった。

日本から米国に、幾度も「尖閣は日米安保条約の適用範囲内か」という質問がされてきた。ケネディ駐日大使やヒラリー元国務長官も、「日本への武力攻撃の際、米国も対処する」とする同条約5条が「適用される」と明言したのだが、必ずしも鵜呑みにはできない。

さし当り問題なのは、「漁民を装った人民解放軍が尖閣に上陸する場合」だろう。この場合、米国は、日米安保条約を適用するレベルでないと判断するのではないか。同時に、日本政府は、漁民上陸を「国家への侵略」と判断できず、自衛隊を出動させられないまま、結果として占領される可能性がある。

さらに、ファネル大佐が報告した「短期集中作戦」が現実化した場合、米国がどの程度まで介入するかは不透明だ。10年間で軍事費5000億ドルの削減に迫られ、アフガニスタンやイラクへの派兵を経た米国は、これまで以上に国内問題に目が向いている。尖閣や台湾を超えて太平洋への進出を目指す中国を、完全に封じ込めることは難しいだろう。

今のところ、日本の自衛隊は、中国の領土強奪作戦を阻止する十分な実力を持っている。だが、この10年の間に米国の軍事力が弱まり、中国の軍備増強が進んだ場合、日米同盟を以てしても解決ができない局面になるだろう。

日本は、中国の海洋進出を阻止することを国家の目標とすべきだ。そのためには、自衛隊法の改正と日米台関係の強化が必要になる。

自衛隊法については、法制度の"すき間"を狙われることに注意せねばならない。日本独自の防衛能力を向上させるには、集団的自衛権行使容認に留まらず、個別的自衛権の見直しも急務だ。尖閣防衛の場合は、明確な攻撃をされる前段階においても、自衛隊に領域警備を命じ、領海侵犯のような場合に必要な武力行使を行えるようにするべきである。

あとは、日米同盟強化の文脈に、台湾の防衛も含ませることだ。台湾は、中国の海洋進出を阻む上でも、シーレーンを確保する上でも要衝である。かつ、尖閣諸島から170キロ、石垣島から270キロと非常に距離が近いため、台湾を切り離して日米同盟を考えてはならない。集団的自衛権の行使の中身に、台湾有事の際にいかに日米が共同して行動するかも含めるなどして、日米台関係の連携を強化するが大切だ。

「尖閣諸島は既に、人民解放軍の作戦地域に入った」―ファネル大佐からの警告にしっかりと耳を傾け、中国の海洋進出を阻むための布石を打っていくべきだ。(HS政経塾 森國英和)

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