ウクライナ情勢が緊迫している。ウクライナ南部に位置し、ロシア系住民が多数を占めるクリミア半島では2月27日、武装集団がクリミア自治共和国の議会を占拠し首相を解任。親ロシアのアクショノフ氏が新首相に就任し、ロシアのプーチン大統領に治安維持への協力を要請したことを受け、プーチン氏は3月1日、ロシア上院に同地域で軍事力を行使することへの承認を求めた。ウクライナにロシアが軍事介入する可能性が高まっている。

そもそもの発端は、昨年末、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が経済危機を回避するために、ロシアからの融資を受け入れる代わりに、EUとの協定締結を見送ったことにある。これに反政府側が反発し、デモを全国的に展開。結局、ヤヌコビッチ氏は、デモ活動を止めることができず、政権が瓦解。反政府側が暫定政権を発足させ、ヤヌコビッチ氏はロシアへ逃亡したが、現在、クリミア半島にはウクライナ暫定政権の統治が事実上及ばない事態となっている。

こうしたウクライナの混乱について海外メディアの反応は様々だ。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(28日付電子版)は「ロシアは西側諸国とウクライナを試している。プーチン露大統領は、2008年にロシア軍がグルジアに侵攻した際、アメリカとヨーロッパはグルジアを助けることがほとんどなかったことを知っており、ここ3ヵ月にわたってウクライナで起きている抗議運動の間にも、動きが鈍かったと見ている」と、分析している。

米駐ウクライナ大使を務めた経歴を持つスティーブ・パイファー氏は、ブルッキングス研究所のサイト上で「ウクライナは西と東を天秤にかけた外交をしてきた」と指摘。2008年にウクライナが将来のNATO加盟に合意した際、プーチン氏がこれに反発し、ウクライナに核ミサイルの照準を合わせると脅した結果、ウクライナはロシア寄りになったと、アメリカを中心とするNATO加盟国の西側とロシアの東側に挟まれて、難しい国家運営をせざるを得なかった経緯について触れている。

一方、ウクライナの暫定政権の責任を追及する意見もある。米エコノミストのポール・ロバーツ氏は23日、「ウクライナの議会が民主主義を破壊する抵抗者を演じている。議会は、選挙をすることなく、選挙で選ばれたヤヌコビッチ前大統領を排除し、非合法政権を樹立している」と、非難している。

ロシアにとって、もしウクライナが西側寄りとなれば、隣接する黒海の露海軍基地や貿易港を喪失する可能性が高くなるなど、軍事的・経済的損失が大きい。一方、西側諸国も、ウクライナを引き込むことを狙っているが、EU内の経済的危機に苦慮するなど、十分な動きをとることができなかった。

こうしたなか、ウクライナはどちらの陣営にもつかない中立外交を基本路線にしていたが、ロシアの恫喝外交や自国経済の危機によって、独立した国家建設が頓挫し続けている。そして今、侵略の危機の中で、どちらの陣営につくべきかという選択を迫られていると言える。

日本も、地政学的に見ると、海を隔ててはいるものの、ロシアや中国、アメリカという大国に接しており、ウクライナの騒動は対岸の火事ではない。経済力と国防力を強め、自分の国は自分で守るという主権国家として当たり前のことを進めなければならない。(慧)

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